ロシアンルーレットにて
「大分歩いたわね、ここらで昼食にしましょう」
近くの岩に腰を下ろしたプラが言った。
「うっーす」
同じく岩に腰を下ろしたチナが言った。
「そういえばあんた、さっきの町で何かの弁当を買っていたわよね」
「おう、それ一緒に食うか?」
「……いや、物を見てから判断させてもらうわ」
「何を警戒してるのさ、いたって普通の弁当だよ、ほら」
そう言うとチナはプラに弁当の箱を差し出した。
そこには、六つのおにぎりが並んでいた。
「あら、予想以上にシンプル。これなら、ひとつ頂こうかしら」
プラが言った。
「遠慮しないで、ひとつと言わずにどんどん食べちゃってよ」
チナが笑顔で言った。
「……」
「ん? どうした?」
「……今のあんたの笑顔から、ただならぬ悪意を感じとったわ」
「……何が言いたい?」
「ズバリ言わせてもらうわ! このおにぎりはただのおにぎりなんかじゃない! 底知れぬ悪意のこもった何かがあるに違いないわ!」
「……ふん、つまらん。これだから勘のいい女は」
「図星のようね。薄情しなさい、このおにぎりの正体を!」
「よかろう。貴様の言うとおり、このおにぎりはただのおにぎりではない」
「じゃあなんなのよ」
「このおにぎりは、「ロシアンルーレットおにぎり!」だ。六つのおにぎりの内のどれかひとつに大量のわさびが練り込まれている」
「……この女、またキテレツなものを勝手に購入しおってからに。買うなら普通のおにぎりを買いなさいよ!」
「普通じゃ食事の時間が面白くなくなるだろうが。常に遊び心を忘れないのが、人生を謳歌し続けるコツだ」
「……いや、食事中に面白さは必要ないでしょうに。ていうか、この大袈裟な口調疲れたわ。ささっとそのわさび入りを食べて、おにぎりの安全を確保して頂戴」
「……ノリの悪い奴だな。ていうか何でアタシがハズレ食べなきゃならないんだ! ここは公平にロシアンルーレット対決と行こうぜ」
「公平にって……あんたが勝手に買って来たんじゃないのよ」
「逃げるのか?」
「……上等じゃない、受けてたつわ」
「……お前、ホントノリのいい奴だな」
二人のロシアンルーレット対決が始まった。
「……中々やるわね」
プラが言った。
「……そっちこそ」
チナが言った。二人の間にあるのは、残り二つとなったおにぎりだ。
「残り二つ、嫌でも勝負が決まるわね」
プラが言った。
「ああ、少し名残惜しい気もするが……勝負だ!」
チナが言った。二人は勢いよく各々の目の前のおにぎりをつかむと口に運んだ。
「……」
「……」
「……ちょっと何我慢してんのよ。こっちは塩味なんだから、あんたの負けでしょう。当たりが塩味ってのも何かあれだけど」
プラが言った。
「いやいや、我慢してるのはそっちだろ。こっちだって塩味だぜ。確かに当たりが塩味ってのが何かあれだけど」
チナが言った。
「……何よそれ、これじゃあまるで」
「ああ、どうやら店側がわさびを入れ忘れたようだな」
「……」
「……」
「……無駄に疲れたわね」
「ああ」
二人は虚しい昼食タイムを過ごした。




