盾を拾って
「……盾だ」
チナが言った。
「……盾ね」
プラが言った。
林道を歩く二人の前に、土ぼこりまみれの盾が現れた。
「なんでこんな場所に盾が? しかもえらく汚れている」
「さあね、誰かの落とし物かなんかじゃないの?」
「落とし物か。じゃあ持ち主に届けないと」
「届けるって、どこによ。それに、その汚れ方から見て、随分と前からここにあるようだし、持ち主の方も忘れている頃でしょうよ」
「そうか、誰からも忘れられた盾か……何だかかわいそうだな」
「……そう?」
「ああ、決めた! アタシ、こいつの次の主人になる!」
「……急ね。どうしたのよ?」
「別に深い理由はないさ。ただこいつがかわいそうでほっとけなくてな。頼むよプラ、最後まで責任持って面倒見るからさ」
「いや、別にそんな捨て猫拾って来た子どもみたく頼まなくてもいいわよ。まあ、一応ちゃんときれいにふいておきなさいよ」
「もちろん! ありがとうな、プラ!」
「うっ、眩しい! そんな綺麗な目で私を見つめないでちょうだい!」
「じゃあ、心底軽蔑した目で見つめよう」
「いや、わざわざそんなことしなくていいから」
こうしてチナと盾の生活が始まった。
そして数日後。
「ふんふんふーん」
手にした盾を磨きながらチナは鼻歌を歌っていた。
「えらくご機嫌じゃないの。よっぽどその盾のことが気に入ったようね」
プラが呆れ顔で言った。
「ああ、拾った時は薄汚れていたけど、毎日磨き続けてたら、見違える程にピカピカになったよ。それこそ鏡として使っても遜色ないようなまでにな」
「いや、それは流石に盛りすぎでしょうよ。でもまあ、そこまで大切にしてもらえて、きっとその盾もあなたに感謝しているはずね」
「へへへ、そうだと嬉しいがな」
「ふふ……と、この先は少し崖になっているらしいわね。盾磨きに気をとられて、足踏み外さないようにしてよ」
「オーケー、こんな崖、このチナ様にかかれば軽い軽い……」
そう言った次の瞬間、チナは崖から足を踏み外した。
「嘘!?」
「チナ!」
プラが瞬時に差し出した手はむなしく空を切り、チナは崖の下へと吸い込まれていった。
「チナ!」
崖下に駆け付けたプラがチナを見つけて駆け寄った。
「……死ぬかと思った」
腰を抜かし、その場に座り込んだままのチナが言った。
「よかったぁ、無事みたいね。死んでも死ななないとはあんたのことね、チナ」
「いやぁ、こいつのおかげだよ」
そう言うとチナは地面に目を落とした。そこには、バラバラに砕け散った盾の姿があった。
「こいつが身代わりになってくれたからアタシの命は助かったんだ」
「そうだったの……きっとそれはその盾からあんたへの恩返しね」
「恩返し?」
「ええ。捨てられて朽ちていくだけだった所を、あんたに拾ってもらったことで再び輝きを取り戻すことができたのだもの。その恩返しよ、きっと」
「……そうか。ありがとうな」
チナは盾に向かって深く感謝の意を示した。
そして翌日。
「あら? やけに洒落た首飾りね。どうしたの、それ?」
プラが言った。
「どうしたのって、見覚えないのかよこの輝きに」
チナはそう言いながら首飾りの中心の装飾をプラに見せた。
「……これってもしかして!」
「ああ、アタシの命の恩人……いや、恩盾にあった無事だった装飾品を首飾りにしたんだ。どうだ、綺麗だろ」
「ええ、ホントに。それこそ鏡として使っても遜色ないようなまでに、ね」
「へへ、おう!」
二人は小さな英雄に思いを馳せながら歩き出した。