棒倒しにて
「あれ、迷ちゃった」
森の中を進むチナが言った。
「……開幕早々、頭の痛くなることを言わないでもらえるかしら」
プラが言った。
「事実なんだからしょうがないだろう。頭痛は我慢してくれ」
「頭痛はそれでどうにかなるけど、迷子は我慢じゃどうにもならないわよ」
「分かってるよ。実はこういう時に備えて、ある秘策を準備してある」
「ほう。流石のあんたも迷子を重ねるうちに学習したのね」
「迷子になっているのはお前もだろう」
「そうだったかしら? して、その秘策とは?」
「ふふん、見て驚け! これがチナ様の秘策だ!」
そう言うとチナは拾って来た一本の木の枝を地面に立てた。
「うわぁっ!」
プラが叫んだ。
「どうした? まだ秘策は披露し終えてないぞ。驚くのにはまだ早い」
「……いえ、十分に驚かせてもらったわ」
「何? どういう意味だ?」
「あのねぇ、このご時世に木の枝の倒れた方向に進もうなんて考えるの、あんたぐらいよ」
「おい! ネタばらしするんじゃない! ……って何でわかったんだ?」
「いや、誰でも分かるわよ。むしろ何で分からないのかが分からないわ」
「むむむ、すでに使われていたネタ……じゃなかった、秘策だったとは。先人達は偉大だな」
「先人達もこんなことで偉大がられたくはないと思うけど……ってこんなアホなことしてないで、迷子から抜け出す方法を考えましょうよ」
「とは言ってもな、これ以外に何か方法があるものか」
「……」
「……」
「……ないわね」
「ないんかい! おいおい、このままじゃマジに木の枝が倒れた方向に進むことになっちまうぜ?」
「なっちまうぜってあんたが提案した秘策じゃないの、責任はとってもらうわよ」
「なんだよそれ。こんなことになるんなら、こんなアホな提案するんじゃなかった」
「身から出たサビね。分かったらおとなしく棒倒しを始めなさい」
「うう、分かったよ……ほい」
チナの手から離れた木の枝は、二人のいる方向に向かって倒れた。
「……」
「……」
「……何とか言えよ」
「こっちの台詞よ! どうすんのよこの結果」
「どうって、枝に従うなら来た道を引き換えせってことになるな」
「引き返してどうするのよ」
「知るかそんなこと。とにかく、倒してしまったものは仕方ない。引き返そうぜ」
二人は来た道を引き返した。
そしてしばらく戻ったところで、別の小道を見つけた。
「あれ? こんな道あったっけ?」
「きっと見落としてたのね。戻って正解だったわ」
「へぇ、すげぇ……なぁプラ」
「何よ?」
「アタシの秘策も馬鹿にしたもんじゃないだろぅ? 今後、道に迷った時はこの方法で」
「死んでもごめんよ」
二人はその小道を進み、無事、次の街に着いた。




