対辛口にて
「それじゃあ、いただきます」
夕食を前にしたプラが言った。
「ちょっと待ちなんし」
チナが言った。
「何よ、私の食欲の前に立ちふさがるつもり? 容赦しないわよ」
「うっひょ、怖い怖い」
「半分冗談よ。で、どうしたの?」
「いゃあ、いつも同じメニューじゃ退屈しちゃうだろ? ってことでこれ」
そう言うとチナは小瓶を差し出した。
「なにこれ、赤い液体?」
プラが尋ねた。
「ふっふっふ、何を隠そうこいつは「死神のソース」って言ってな。こいつを飯にかけたら最後、そいつは口内着火兵器に早変わりって分けだ」
「……大袈裟に言ってるけど、要は激辛ソースってわけね」
「要はそうだ。では早速……」
「ちょっと! 何、人の夕食に変なものかけようとしてるのよ!」
「変なものじゃない! 「死神のソース」だ!」
「そんな名前のもの、十人中、十人が変な物認定するわよ! かけるなら自分のにかけなさいよ!」
「嫌だよ。それじゃあ、食べた人のリアクションが見えないじゃないか」
「こいつめが、真顔で開き直りおって……とにかく、そんな意味不明なもので、せっかくの美味しい夕飯を劇物に変えるなんてアホのやることだわ」
「うう、ソース以上に辛口な奴だな」
「何か言った?」
「いや、別に」
「そう。ま、分かったらそんなもの、とっとと処分しなさい」
「えーっ! そんなぁ……結構いいお値段したんだけどな」
「はぁ? またあんたは変な物にカネ使ってぇ!」
「ちょっと……うわぁ!」
プラにつかみかかられたチナは手にした小瓶を手放してしまった。
そして、その中身の液体は華麗に宙を舞い、綺麗に二人の夕食の上に着地した。
「……」
「……」
「……プ、プラのせいだぜ。いきなりつかみかかってくるから」
「も、もとといえばこんなもん買ってきたあんたが……って、そんなこと言っている場合じゃないわね」
「あ、ああ……あのさ、アタシも手伝うから夕食、作り直さないか?」
「それは無理よ。明日、街で食材の買いだしをするつもりだったから、この夕食に手持ちの食材、全部使っちゃったのよね」
「そ、そうか……じゃあ今日はメシ抜きで」
「それは駄目よ。明日も街までかなりの距離を歩くのだもの。今夜食べなくちゃ、明日、街にたどり着く前に仲良く行き倒れよ」
「……つまりアタシらに残された手段は」
「ええ、この死神の晩餐を食べることに他ならないわ」
「……」
「……」
「……いっせーの」
「せ!」
薄暗い森の中心で、二本の綺麗な火柱が立ちあがった。