草原にて
「うっほーい! 一面の草原だぁ!」
チナが草原の中心で吠えた。
「……どんなテンションよ、それ。まあ、風が気持ちいいわね」
プラが言った。
「何のんきなこと言ってんだよ、ここには草しかないんだぜ」
「そりゃそうでしょ、草原だもの。それがどうかしたの?」
「どうもこうもない! 草しかないってことは、草以外、会話のネタがねぇてことだぜ!」
「……それはまずいわね」
「だろぅ? 地図によるとここからしばらくは一面の草原が続くようだ。どうやって間を持たせるよ?」
「別に無理して間を持たせるよ必要はないんじゃない? 沈黙故の信頼関係だってあるものよ」
「そうなのか? じゃあ、お言葉に甘えて……」
「ん?」
「……」
「……そんな急に黙ることはないと思うのだけど……まあ、いいわ」
「……」
「……」
「……ぷはっ! 限界だ! 参った、降参!」
「いつから勝負になったのよ。あと、呼吸ぐらいはしなさいよ」
「息を止めないと喋り始めてしまう性なものでね。しかし、こいつは予想以上にハードだぜ」
「そんなに難しいことじゃないと思うのだけど。まあ、それなら無理に黙ることはないわ。適当に話題見つけて会話をしましょう」
「むむむ、いざ会話をしましょうと言われると、なかなか出て来ないものだな」
「何でもいいわよ。誰に審査されている訳でもないし」
「じゃあ……好きな食べ物は?」
「……初対面の子どもみたいな話の振り方ね。まあ、いいけど」
「で、何よ? 好きな食べ物」
「……えーと」
「ん?」
「……」
「……」
「……予想外だわ。大人になるとこの質問、非常に難しく思えるわね」
「何だよそれ。別に一番好きなものを聞いているわけじゃないんだ。何か言ってよ、話が進まないからさ」
「じゃあ……リンゴで!」
「……そう」
「何よその返しは! もっとこう膨らませなさいよ話を!」
「んなこと言ったって、リンゴでどう話を膨らませればいいんだよ。もっと盛り上がる回答をしてくれ!」
「あんたの質問がしょーもないから、こんな回答しかできないんじゃないのよ!」
「何だと!」
「何よ!」
そう言って取っ組み合いになりかけた二人を、風が撫でた。
「……」
「……」
「……まったく、これじゃあいつもと同じじゃないの」
「だな。結局、どこにいようとアタシらはアタシらなんだよ」
「何よそれ。キメたつもり? まあ、嫌いじゃないけどね」
「ははは。それじゃあ細かい事は気にせずに、いつも通り行くか」
「ええ、この風をBGM代わりにしてね」
二人はどこまでも続く草原を歩き始めた。