対バナナの皮にて
「いやぁ、相変わらずの謎の甘さ。やっぱりバナナはうまいな」
皿に盛られたバナナを貪るチナが言った。
「その謎の甘さって感想が謎なんだけど。まあ、美味しいのは確かね」
プラが言った。
「ところでプラ」
「何よ?」
「バナナと言ったら?」
「……は?」
「おいおい、バナナと言ったらあれだろ、あれ!」
「いや、ごめん。全然わからないんだけど」
「あーもう! 皮だよ、皮! バナナと言ったらバナナの皮だよ!」
「はぁ、それがどうかしたの?」
「どうもこうもない! バナナを食ったら皮が残る! その残った皮でひと転びするのが常識だろうが!」
「……どうやらそのバナナ、毒バナナだったようね。私の確認不足のせいだわ。ごめんなさい」
「なんだ毒バナナって! 毒のせいでおかしくなって言ってんじゃないぞ!」
「正気で言ってるってこと?」
「ああ」
「……仕方ない、話を合わせてあげるわ」
「頼むぜ」
「……えーおほん。悪いけどその常識とやら、私は存じ上げないのだけれど」
「それはお前が非常識な人間だからだからだろ」
「……一発、はたいていいかしら?」
「ダメです」
「ちっ! ……だったら参考の為に、その常識とやらを私の目の前で実演してみせてくれないかしら?」
「いいぞ……肝心の皮は?」
「ないわ。だからこれ食べて生成して」
プラはチナにバナナを一本投げ渡した。
「なるはやでね」
「任せとけ!」
「よし、準備完了だな」
自身からわずかに離れた位置にバナナの皮を置いたチナが言った。
「気合いの入っているところ悪いけど、口の回り、食べカスついているわよ」
プラが言った。
「……ホントだ。まぁ、いいや。この方が転んだ時にマヌケ度があがるしな」
「……大分、体張ってるわね。まったく、何があんたをそこまで駆り立てるんだか」
「さあな、アタシにもよく分からんがきっと血筋だろ」
「血筋?」
「ああ、多分アタシの御先祖様は大道芸人かなんかだった気がするんだよ」
「……徹頭徹尾あやふやな回答ね。血筋でもなんでもないじゃないの」
「まあ、細かいことはいいじゃないか。私の体が今、ウケを求めている。それだけは確かなことだ」
「格好つけているようで、全然格好よくないんだけど……まあ、いいわ。そこまで言うなら見せてもらおうじゃないの、あんたの渾身のウケってやつを!」
「ああ、その目に焼き付けよ! これがアタシの全身全霊の! バナナの滑り芸だ!」
そういうとチナはその場から駆け出し、やがて地面に置かれたバナナの皮を踏んづけた……そう、踏んづけただけで転ぶことはなかった。
「……」
「……」
「……滑らなかったけどスベったわね」
「……おあとがよろしいようで」
二人はバナナの皮をきちんと処分した。