砂漠にて
「くぅーっ、あっついなぁ!」
チナが言った。
彼女は今、砂一面の大地を踏みしていた。
「ちょっとやめなさいよ。言葉に出すと余計暑く感じるでしょうが」
プラが言った。
「暑いものは暑いのだから仕方がなかろう。心頭滅却すれば火もまた涼し、なんてのはフィクションさ」
「同意ね。どうせ滅却するならこの気温を滅却してほしいものだわ」
「そしたらここらは辺り一面雪景色だな。暑さが恋しくなっちまうぜ?」
「そうね、じゃあ丁度いい温度まで滅却してもらいましょう」
「おいおい、ここは風呂じゃねえんだぜ。湯加減変えるみたいに言われてもな」
「分かっているわ。風呂の温度を変えるように、都合よくはいかないものよ、世の中ってのは」
「……何をどうしたら気温の話からそんなスケールのでかい話になるんだよ」
「さぁ? きっと暑さにやられたのね」
「なんでも暑さのせいにできそうだな。何でも屋の暑ささんには同情するよ」
「同情するなら、私にしてほしいわね。もう喉がカラカラでたまらないわ」
「そのわりにはよく喋っている気がするが……水筒ももうからだ、予定だともう少し行った先にオアシスがある。それまでしんぼうだ」
「こういう時こそ心頭を滅却しなさいって訳ね。上等じゃない火でも爆炎でもなんでも涼として受け止めてあげるわ」
「いくらなんでも爆炎は無理だろ。まぁ、器が大きいに越したことはないと思うが」
「どんなに大きくても器程度ですくえる量の水じゃ満足できないわ。水筒いえ、タル数個分はほしいところね」
「タルなんぞ持ち合わせてはいないぞ。第一、そんなに飲んだら腹をこわすぜ」
「干からびるよりはましよ」
数分後、二人はオアシスへと到着した。
「大地の恵みぃいいいいい! 我を潤せぇえええええ!」
オアシスの水にダイブしたプラが言った。
「おいおいキャラが崩壊してるぞ。嬉しいのは分かるが、もうちょっと慎ましくだな」
チナが言った。
「ふんっ、お高く止まっちゃて。あんただって今すぐにでもこの生命の源にダイブしたい癖に」
「そりゃあそうだが、水を確保するのが先だ。そんな砂まみれの体でダイブしたら、せっかくの水が砂という名のバニラビーンズで彩られちまう」
「そういことは先に言いなさいよ。もう後の祭りよ?」
「ああ、だからこれからアタシのとる行動はただひとつ……おりゃっ!」
そう言うとチナはプラと同じく水にダイブした。
「結局、あんたもダイブするのね」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「暑さのせいでしょ」
「……そういことにしておこう」
二人は灼熱の大地の中心で一時の休息を満喫した。