山小屋を見つけて
「あーもう疲れた! 一歩も歩けん!」
チナが言った。
「またぁ? さっきもそう言ってたけど結局、歩けてたじゃない」
プラが言った。
二人は山の中をひたすら歩き続けていた。
「三度目、いや二度目の正直、こんどこそは本当に動けん!」
「なにさりげなく一回分減らしてるのよ。それならこっちは仏の顔も二度まで。次はないわよ」
「気の短い仏様だこと」
「訂正、一度まで」
「分かった、分かった! ありがたく休ませて頂くことにする!」
「よろしい。ま、でも実際、次の街まではかなりの距離があるもの。ここらで休憩しとくのが無難ね」
「そう言うことだ。プラ、水筒」
「はい」
「どーも……って空じゃねぇか!」
「さっきあんたが全部飲んだんでしょうが」
「そういやそうだった……ん?」
「どうしたの?」
「何か向こうの茂みの中に民家らしきものが」
「とうとう幻覚まで見始めるとはあんたも末期ね。こんな山の中に家なんてあるわけないじゃない」
「勝手に私の生命に終止符を打つな! 嘘だと思うなら見てみろ」
「どれどれ……あらホント。どうやら私も末期のようね」
「そうじゃないだろ! あるんだよ民間が! 水を分けてもらおうぜ」
そう言うとチナは駆け出した。
(普通に歩けてるし。どうやら仏の気が長すぎたようね)
プラはあきれながらチナの後を追った。
「あれぇ、おかしいな。この家誰もいないぜ」
民間に到着し、その周囲をうろつくチナが言った。
「そりゃ、そうでしょ。ここ、無人の山小屋だもの」
プラが言った。
「山小屋? なんでそんなこと知ってんだよ?」
「そこの看板に書いてあったわ。ご自由にお使い下さいって」
「あのなぁ、そう言うことは先に言ってくれよ」
「一歩も歩けないって嘘ついたおかえしよ」
「うぐっ、相変わらず嫌味な奴だ」
「何か言った?」
「言ってねぇよ。疲れているのは事実なんだ。使っていいつうんなら、中で休ませてもらおうぜ」
「そうね」
「……そんなに広くはないが、何か落ち着くな」
山小屋内の椅子に腰かけたチナが言った。
「そうねぇ、自然の中の一軒家ってのもなかなかオツなものね」
同じく椅子に腰かけたプラが言った。
「ああ……なぁ、プラ」
「ん? なによ?」
「もしさ、もしこの旅が終わったら。こういう森の中に家を建てて、そこで一緒に暮らさないか?」
「チナ……」
「へへ」
「……あんたにしてはいいアイデアね」
「おい、一言余計だぞ」
「ふふ、でもごめんなさい。それはお断りするわ」
「え、何で?」
「だって……ここ水ないじゃない」
「……あっ、すっかり忘れてた」
二人は休憩もそこそこに、水を得るために次の街へ向かった。