ハチマキを着けて
「ふぅ、今日もいい天気だな、プラ」
そう言ったプラの頭には白いハチマキが巻かれていた。
「そうね、チナ」
プラが言った。
「……」
「……」
「こんな天気のいい日の昼食は何にしようか?」
「そうねぇ、サンドウィッチとかどうかしら?」
「お、いいね。青空の下で食べるサンドウィッチは格別だもんな」
「ええ」
「……」
「……」
「……なぁ、プラ。なんか変わったことに気づかいないか?」
「変わったこと? とくにないと思うけど」
「いやぁそんなはずはない、周りをよく見ろよ。明らかにいつもと違う箇所があるだろ」
「なによそれ、間違い探し? 残念だけど、今日も私達の日常は山なし谷なしの直線上よ」
「……急にむなしくなるようなことを言うなよ、泣けてくるじゃないか。って、そうじゃなくてだな!」
「はいはい、分かってるわよ。意地悪して悪かったわね」
「プラ……へへへ」
「ふふふ」
「ははは」
「左目の下、目やについてるわよ」
「あ、ホントだ」
「まったく、身だしなみには気を配りなさいよ」
「悪い悪い……って、おい!」
「うわっ! びっくりした、急に詰めよってこないでよ」
「違うだろ? そうじゃないだろ? もっと変わった部分があるだろ? その両の目でよく見て、アタシのことを!」
「な、何よ、気持ち悪いわね! とくに変わったところなんてないっていってるでしょ!」
「いいや、変わってるわ! あなたの目の前のアタシは昨日までの私とは違うのよ!」
「わ、わからないわよ! 口調以外であんたの変わった部分なんて!」
「っ! ……そ、そうか」
「……チナ?」
「よくわかったよ、おまえの目に映るアタシという存在は所詮その程度のものだったてことがな」
「な、何言ってんのよ」
「悪いが、今日限りでお前との旅はおしまいだ……あばよ!」
そう言うとチナはプラに背を向けて走りだした。
「っ! 待ちなさい! チナ!」
プラが叫んだ。
「引き留めても無駄だ!」
「足元に穴が!」
「へ?」
チナは足元の大きな穴に落ちた。
「……う、ううう」
「ちょっと、大丈夫? ケガはない?」
「……ああ」
「よかった。ならとっととそのハチマキをほどいて、その片端をこっちに渡しなさい。引き上げるから」
「すまねぇ、恩に着るぜ」
「はぁ、助かった」
無事、穴から出たチナが言った。
「まったく、世話が焼けるんだから」
プラが言った。
「へへ、どうやらアタシにはお前が必要みたいだ」
「それは、お互い様よ」
「ふっ、ははは!」
「ぷっ、ふふふ!」
「ははは……なぁ?」
「ん? 何よ?」
「何か今の一連のやり取り、違和感がなかったか?」
「そう? とくに感じなかったけど」
「そうか? まあいいか!」
二人は次の街に向けて歩きだした。
なお、チナの感じた違和感の正体は神のみぞ知るものとなった。