お笑い草をみつけて
「おい見ろよ。あれがあるぜ」
チナが何かを指さしながら言った。
「あれじゃわかんないでしょうよ。何よ?」
プラが言った。
「分からないのか? あそこに生えてる草、世に名高い「お笑い草」だぜ」
「ごめんなさい、初耳だわ。なんなのその草は?」
「名は体を表す。そのままだよ、あれを食べると笑いが止まらなくなるんだ。気をつけろよ」
「……草を食べるっていう状況がかなりレアケースだと思うのだけど」
「いやぁ、そうでもないだろ。ウチらみたいな根無し草はいつ飢えてその辺の草を食べる形になってもおかしくないだろう?」
「まあ、そう言う共食いがないとは言い切れないわね」
「だろぅ? 誤ってこの草を食べてしまうことがあるかもしれない。覚えておいて損はないはずだ」
「そうね、肝に銘じておくわ」
二人は草のそばを通り過ぎた。
「……」
「……」
「……おいおい、ちょっと待たないか!」
「今度は何よ? 泣き草? 怒り草?」
「そんなにバリエーションがあるものじゃない!」
「じゃあ、何よ?」
「あのなぁ、こんなに面白そうな草を見つけといて素通りはないだろう」
「なんでよ、危険物なんでしょ。触らぬ神に祟りなしだわ」
「神には触れなくていいからこの草には触れてくれよ」
「……食べろっていうの?」
「……話が早くて助かるな」
「なんであたしがこんなもの食べなくちゃいけないのよ! 面白そうなら自分で食べなさいよ!」
「かーっ、分かってないねぇ。面白いのはこいつを食べて笑うことじゃない、食べて笑う奴の姿を見ることなんだよ!」
「……」
「……」
「それは……そうね」
「そこは納得するのかよ! 性格悪いな!」
「あんたに言われたくないわよ! ま、でもそういうことなら、尚更私が食べるわけにはいかないわ。こいつはあんたが食べなさい。私はその姿を見て気持ち良く高笑いを奏でてあげるから」
「……それ、結局、二人共笑うことになってないか?」
「……あ、ホントだ」
「じゃあどっちがこの草を食べても結果は同じだな。というわけで、召し上がれ」
「いただきま……すん! あんたが食いなさい! 第一発見者でしょうが!」
「なんだよそれ! 関係ねぇだろ! お前が食え!」
「食え!」
「食え!」
30分後。
「……ぜぇ」
「……はぁ」
「……しょうがない。ここらで手打ちとしましょう」
「……ああ、そうだな」
「まったく……ふふっ」
「ん? なんだよ」
「いや、こんなしょーもないことで取っ組み合いになるなんて。つくづく私達って馬鹿だなって思ってね」
「はは、そりゃ言えてるな」
「まぁでも、こんな関係が幸せっていえるのかもね。変な草を押し付け合える、そんな関係が」
「こんな関係が幸せだ? そりゃ、まさしく「お笑い草」だな!」
「……」
「……」
「……それ、言いたかっただけでしょ」
「はい、すいません」
お笑い草が冷たい風になびいた。