風邪を引いて
「ぶわっくしょい!」
チナがくしゃみをした。
「ちょっとやだ、風邪? お腹出して寝てたんじゃないでしょうね?」
プラが言った。
「頭隠して尻も隠す。お腹もしっかり隠してたよ」
「いや、頭は出しときなさいよ。何でもいいけど移さないでよね」
「おいおい、アタシの腹並みに冷たい奴だな。もうちょっとこう、労わってくれよ」
「やっぱり腹出してたんじゃないのよ! そうねぇ、今晩のおかずだけど、これ」
「ん? ネギか?」
「そうよ。こいつを首に巻いておけば、風邪なんて風のごとく刹那に消え去るわ」
「そいつは初耳だな。アタシの聞いた話じゃ腹に巻くと効果があるらしいが」
「それじゃあただの腹巻じゃない。まあ、ある意味一番理にかなっているかもしれないけど」
「困ったな意見が綺麗に二つに割れてしまった。どちらが本当なんだ?」
「二人なんだからそりゃ綺麗に割れるでしょ。こういう場合は第三者の意見に委ねるしかなさそうね」
「第三者? 誰だそれは?」
「……」
「……」
「……昨日の自分」
「は?」
「ごめん、今のなし」
「分かった」
「そうねぇ、考え方を変えましょう。首でも腹でもなく別の場所に巻いてみるのよ」
「巻くのは確定なのか」
「当り前よ、そこいじったら折衷案じゃなくなっちゃうじゃない。で、どこに巻く?」
「巻けるとこなど限られているだろう。うーん、くしゃみを止めると言う意味では口に巻くのがいいかもな」
「それ、腹巻とおなじじゃない?」
「そうか? まあ、やってみよう」
「……」
「……」
「……」
「……どう?」
「……ネギ臭い」
「でしょうね」
「ぶわぁっ! 耐えられん! この方法は悪手だ! それだけは分かる!」
「じゃあ次はどこに巻く?」
「もういいわ! これ以上は食べ物を粗末に扱っている気がして気が引ける!」
「そう。じゃあ、もうネギは無理ね」
「巻く物を変えてみたらどうだ?」
「急に選択肢が増えたわね。何を巻くの?」
「……腹巻とか?」
「じゃあ、最初から腹巻でいいじゃないのよ!」
「お前が言い出したんだろ! ……ぶ、ぶわっくしょい!」
「おっと危ない。相手が病人だという事を忘れてつかみかかるとこだったわ」
「病人じゃなかったらつかみかかるのかよ。で、どうすりゃいいんだ?」
「自然に治るのを待つしかないわね。あ、ネギ返して。夕食に使うから」
「これ使うのかよ!」
「食べ物は粗末にしちゃいけないんでしょ」
「うう、そうだな」
翌日。
「……」
「……」
「……風邪、治ったの?」
「ん? ああ、すっかりな」
「そう、よかったじゃない。何かしたの?」
「いや、特に変わったことはなにも」
「……もしかして、昨日の夕食のネギスープが効いたのかもね」
「まさか。ネギ食ったくらいで風邪が治るなんて」
「ふふ、ないわよね」
「「わははははは!」」
二人は気づいていなかった、無意識の内に正しいネギの使い方をしていたことを。




