迷いの森にて
「突然だが、ヒジって十回言ってみて」
チナが言った。
「ヒジ×10」
プラが言った。
「じゃあ、ここは」
チナはヒジを指さした。
「ヒジ」
「……あれ? おかしいな」
「おかしいのはあんたでしょ。ヒザでしょヒザ」
「あっそうか。ヒザ×10」
「ここは?」
プラはヒザを指さした。
「ヒザ」
「……あれ? なんかおかしいわね」
「おかしいと言えばこの森もおかしいぜ。もう随分歩いたのに一向に出口が見えない」
「そりゃあここは迷いの森だもの、迷わない方がおかしいわよ」
「おいおい、それを知っててこの森に入ったのか? 気は確かか?」
「だってこの森抜ける以外に先に進むルートがないんだもの。分かったらさっさとここを抜け出す方法を考えましょう」
「方法ねぇ、手っ取り早く空を飛んで行くのはどうだ?」
「いい案ね。早速飛ばしてあげるわ、あんたをこの拳でね」
「冗談、冗談! うーんそうだなぁ、ベタだが、通ってきた道に印をつけて行くのはどうだ」
「ベタだけどいいじゃない。で、印は何を使うの?」
「ちょっともったいないが、クッキーを使おうと思う」
「……あ、オチが見えた気がする」
30分後。
「……なんかここ前にも通った気がしないか?」
「そう? クッキーは落ちてる?」
「ないけど」
「そりゃあそうでしょうね。クッキーなんて動物に食われて消えるものが目印として機能するはずがないわ」
「なんと! そりゃ盲点! ……というか気づいてたなら言ってくれよ」
「それは無理よ。お約束だもの」
「約束じゃあしょうがない、破る訳にはいかないからな」
「そうよ、破るならこの状況を打ち破りましょう」
「そうだな、クッキーはダメだから、石を使うことにしよう」
30分後。
「……なんかここ前にも通った気がしないか?」
「そう? 石は落ちてる?」
「ないけど」
「じゃあ通ったことない道なんじゃないの?」
「そうかなぁ……あっ!」
チナが後ろを振り返るとそこには石を食べる岩石型の魔物の姿があった。
「おいおい、これじゃあクッキーと大差ないじゃないか」
「これは盲点だったわね。魔物の存在をすっかり忘れていたわ」
「こんなんじゃ何使っても食われるのがオチだ。どうするよ?」
「仕方ない、地図を見ることにしましょう」
「そうだな」
「……」
「……」
「……」
「……って地図あるのかよ! 最初から出せよ!」
「それはダメよ。せっかくの迷いの森なんだから、迷わなきゃもったいないでしょ」
「そういうものか?」
「そういうものよ」
「それじゃあもう十分に迷ったことだし、地図通り歩いて森を抜けるとしよう」
「ええそうしましょう……最も、私たち二人に正しく地図を読む力があればだけど、ね」
「とほほ、こいつはもう少しこの森を堪能することになりそうだ」
二日後、二人は無事森から抜け出した。