ミキサーを手に入れて
「……おかしい、明らかにカネが減っている」
財布の中身を確認するプラ言った。
「その答え、知りたいか?」
背後のチナが言った。
「知っているの? チナ?」
「ああ、カネが減ったその理由、それは……」
そう言うとチナは手に持っていた袋から何かを取り出した。
「アタシがこの「何でも木の実ミキサーDX」を、お前に黙って購入したからだ」
次の瞬間、プラの鉄拳がチナを襲った。チナはそれを軽やかにかわした。
「ちょっと、何よけてんのよ食らいなさいよ」
「いやまだだよ、プラ。アタシにその拳を叩きこむかどうかはこれを見てからにしていただこうか」
そう言いとチナは切り株の上にミキサーを起き、それに複数の木の実を入れた。
「ちょいちょいちょい、何勝手に夕食の材料使ってるのよ。夕食なくなっちゃうじゃないの」
「問題ない。なぜならこれからアタシが生み出すものは、その夕食の味をはるかに越えたものになるであろうからね」
そう言いと、チナはミキサーのハンドルを回した。
数分後。
「……できたぜ、究極の料理が」
「その究極の意味が前向きなものであることを祈りたいけど」
「そいつは飲んでみれば分かるさ」
「大した自信ね。それじゃあ頂くわ」
「召し上がれ」
「ぐびっ」
「……」
「……」
「どう?」
「……鉄拳はお預けね」
「やった! ほらみろ、買って正解だろ?」
「そ、そりゃあ確かに美味しいけど。黙って購入したことの罪が消えた訳じゃないわよ」
「じゃあその罪も次なる至極の一品で償って見せよう」
「は? まだやる気なの?」
「当然。だってこれ楽しいんだもの」
「冗談じゃないわよ! さっき使った木の実だって決して安いものじゃないのよ?」
「最高の料理は最高の食材から生まれる。致し方ない出費さ」
「てことは、さっきのジュースが美味しかったのはミキサーのおかげじゃなくて、使った木の実が美味しかったからってことよね?」
「ぎくっ!」
「墓穴掘ったわね料理人さん」
「そ、そんなことはない! ミキサーが食材の味を引き出したんだ! ミキサーは必要だ!」
「だったら、私がその辺で拾って来た木の実を材料に作っても、そのミキサーなら舌つづみを打ち鳴らす一品を生み出せるってわけよね?」
「うっ、上等だ……やってみろ!」
数分後。
「い、頂きます」
チナが言った。
「召し上がれ」
プラが言った。
「ぐびっ」
「……」
「……」
「……どうよ?」
「あーっ、不味い! 森羅万象の中で一番不味い! なんだこれ?」
「何って至極の一品よ」
「げほっげほっ。くーっ、参ったアタシの負けだ! 黙ってミキサー買ったことも謝罪するよ! 鉄拳だってくらってやる!」
「流石の私を泣きっ面に蜂は与えないわ」
「プラ……」
「ただし、今後なんか買うときは私に一言かけなさいよ」
「……ああ、了解した」
そして翌朝。
「ふわぁあ……おはよう」
「おはよーさん。朝食できてるわよ」
「おっ悪いね。んじゃ、いただきま……」
「……ん? どうかした?」
「……なんだこの液体は?」
「何って、ジュースだけど」
「……もしかして木の実の?」
「ええ、この前、市場で美味しい木の実の大安売りしててね。ついつい買いすぎちゃったから、例のミキサーでジュースにしたのよ」
「……」
「ん?」
「……お前も結局使ってんじゃねぇかぁ!!」
チナの鉄拳がプラを襲った。
プラはそれを軽やかにかわした。