橋の前にて
「これは、はたまた」
「いかがなものか」
プラとチナが言った。
山道を進む彼女達の目の前に、二本の橋が現れた。
「右の橋は絵に描いたような丸太とロープで組まれた吊り橋ね」
「片や左の橋は石材で作られた頑丈そうな石橋だ」
「……刹那も悩む時間は必要ないわね。当然、私達が選ぶのは」
「ああ、右の吊り橋だ」
「……」
「ん? どうした?」
「今のボケ、30点よ」
「ほう、及第点と言ったところか……じゃない! なにアタシの発言をボケ扱いしているのだ!」
「え、本気で言ったってこと?」
「絵に描いたような引き顔をするんじゃない! 本気も本気だ、大真面目だ!」
「……あのねぇ、この状況で吊り橋選ぶ人なんてウケ狙いの大道芸人ぐらいよ。もしかしてあなた芸人さん?」
「断じて違う」
「ならどうして吊り橋を選ぶというのかしら?」
「ちちち、プラくん君はもう少し語学を学ぶことだ。石橋を叩いて渡るという言葉を知らないのか?」
「存じているけど、それがなんの関係があるのよ?」
「言葉は通りさ。石橋は叩きながら渡らないといけないんだ。だが、そんなことをしていたら日が暮れてしまう。それじゃあ今夜の宿はお預けだ。ここはとっとと吊り橋を渡ってしまった方がいい」
「あきれた、勉強不足はあなたの方ね。急いては事を仕損じると言う言葉を知らないの。焦って危険な橋を渡って落ちたらどうするのよ? というか、石橋を実際に叩きながら渡る必要はないのよ」
「そうなのか?」
「そうなのよ」
「じゃあ、石橋を行こう」
「随分と切り替えの早い。もっとこう、意地とかはないわけ?」
「意地もテントも張る気はないよ。今日こそはフカフカのベッドで夢を見るんだ」
「まったく、面の皮の厚い。まあいいわ、行きましょう」
そう言って、プラが石橋に片足をかけた次の瞬間、轟音と共に石橋は崩れ落ちた。
「……」
「……」
「……プラさん。明日からは食事制限を心がけた方がよいかと」
「私の体重のせいで落ちたわけないでしょう! 橋がボロボロだったのよ!」
「現実とは残酷なものだ。受け入れ難いのも無理はない」
「だから違うって!」
二人はいがみ合いながらも残った吊り橋の方を渡りきった。
「ふぅ、なんとか生きたまま橋を渡りきったわね」
「ああ、吊り橋とは存外丈夫なものなのだな」
「そうね、ひとつ賢くなったわ」
「おいおい、賢くなったのはひとつではないであろう」
「……」
「……」
「……はぁ、わかったわよ。「石橋は叩いて渡れ」でしょ、肝に命じておくわ」
「素直でよろしい! それじゃあ先に進むとしよう。足元とそれから、体重にも気をつけながらな」
「だから違うっつーの!」
プラの怒号が吊り橋を揺らした。