深い森にて
深い森の中に、二つの足音が響いていた。
「なぁ、プラ。いい加減認めたらどうだ?」
金色のロングヘアーの少女が口を開いた。
「……しつこいわね、チナ。認めないったら認めないわよ。この私に限ってそんなことあり得ないわ」
隣を歩く白髪のショートヘアーの少女が答えた。
「いや、お前に限ったことだから言ってるんだよ。この状況、どう見てもアタシ達は……」
「やめて、繰り返すようだけどありえないから」
「いいや、言わせて貰うよ! 今! アタシ達二人は!」
「確実にこの森で迷ってる、でしょ」
二人は同時に足を止めた。
「あらら、自分で言っちゃったよ。これはもう認めたってことだよね?」
チナが顔をニヤつかせながら言った。
「はぁ、まったく。ええその通り、観念するわよ。迷子よ迷子、二人仲良くこの森でね」
プラがため息混じりにそう言った。
「だから森に入る前に言ったじゃん。方向音痴のプラが地図持っちゃダメだって」
チナが近くの切り株に腰を下ろしながら言った。
「う、うるさいわね、確かに私は地図を見るのはちょっぴり苦手だけど。苦手だからって避け続けてたら、一生方向音痴のままじゃないのよ! 私はそんなのごめんだわ!」
プラが丸めた地図で肩を叩きながら言った。
「うわっ、出たよその謎ストイック精神。変な所で強情なんだから。おかげ様でウチまで迷子の子猫の仲間入りだよ」
「なによ! あんただって大概方向音痴でしょうに! この前、市場で迷子になって大変だったの、忘れたとは言わせないわよ!」
「うっ! あ、あれはその、ちょっとしたケアレスミスさ。猿も木から落ちる。実力がある故のミスってやつさ」
「……まったく口の減らない。まあ、いいわ。大分歩き回って疲れたし、ここらで燃料補給といきましょうか」
そう言うとプラはバッグから二人分の弁当箱を取り出した。
「やったぁ! 飯だ! 頂きまぁす……」
「ちょい待ち」
弁当箱に伸びたチナの手をプラが遮った。
「なっ、何だよ? 手ならちゃんと拭くぜ?」
「それもそうだけど……あんた、まさか自分だけその綺麗な切り株に座ってランチと洒落混む訳じゃないわよね?」
「……まさか」
「ええ、そのまさかよ。一人だけ尻を汚さないなんて不公平よ。あんたも私と一緒に、この土煙香る大地に座って、泥臭い食事の一時を送りましょう」
「ひっ、ひえええ! そいつはごめんこうむる! アタシは見た目通り、大のきれい好き! そのアタシが大地と尻相撲なんてとりたくないやい! 座るなら一人で座れよ、この泥ん子!」
「誰が泥ん子よ! 私だって座れるもんならその切り株に座りたいわよ! でも、それだとあんたが地べたに座る羽目になる。それではあまりに可哀想! だから、ここは公平に二人仲良く地面に腰を下ろすべきなのよ!」
「公平なんて知ったことか! 所詮この世は早い者勝ち。先にこの切り株に座ったアタシには、ここで食事をする権利がある! ……てなわけで、いただきまぁす」
そう言うとチナは弁当箱を開き始めた。
「ああ! 実力行使とは卑怯な! どきなさい! その切り株は私の物よ!」
プラはチナに飛びかかった。
「うおっ、危ね! ……ついに本性を現したな。公平だ何だかんだと言っといて、結局お前もこの切り株に座りたいだけじゃないか!」
「ええ、そうよ! 文句ある!」
「ひ、開き直りやがった……ええい! 渡してなるものか、この場所はアタシのものだ!」
「いいや、私の物よ!」
「アタシのだ!」
「私の!」
二人は切り株の上で取っ組み合いになった。
そして、数分間の激闘の末、二人は一つの切り株の上に、仲良く座って食事をすることになった。