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内なる敵の存在【scene11】

11


 リオンは審議室の戸口で一礼すると、廊下へと歩み出た。入り口そばの壁にはケインがもたれて待っていた。

 「待たせたか」

 リオンの問いかけにケインは首を横に振った。「あまり。俺もさっき着いたところだよ」

 ふたりは並んで廊下を歩き始めた。

 「……で、どうだった。思わせぶりな奴とかいたのか?」

 ケインはリオンに囁くようにして尋ねた。廊下はひとが多いわけではないが、ときどきすれ違う者はいる。

 「思わせぶりどころか。大臣たちには何の様子も見られなかったよ」

 リオンは首をすくめて答えた。

 昨夜、リオンたちを襲った者たちの正体は人間だった。ケインは黒ずくめの服装から、てっきり暗黒処刑人ダーク・アサシンだと思っていた。暗黒処刑人ダーク・アサシンとは魔族の一種で、暗殺を生業としていた。一見すると、小柄な人間のように見えるが、顔がだいぶ異なる。人間には高い、低いの違いはあれ、大抵の者には鼻梁があり、鼻尖に肉がついている。暗黒処刑人ダーク・アサシンには鼻に肉がなく、顔の中心に穴が二つ空いているだけである。目も人間のものと異なり、白目部分が濃紺色であり、角膜部分は金色あるいは明るい黄色と言えるものだ。顔全体も丸く、その容貌は人間より、むしろ魚類寄りに見える。歯の形状も人間のような門歯はなく、すべて鋭い牙であることも人間との相違点である。暗黒処刑人ダーク・アサシンと人間を見誤ることはまずない。

 「襲われたからとは言え、人間に手をかけちまったか」ケインは頭を掻いた。

 「こいつらは俺たちだと承知のうえで襲ってきたフシがある。狙いは俺の命だと思う」

 「しかし、こいつら人間だろ? これから人間社会を救うために出陣する勇者を殺して、何のトクがあるって言うんだ?」

 「考えられるのは、右大臣か左大臣のどちらかが、俺を排除したいと考えた、という線だろうな」

 「左大臣ならともかく、右大臣はお前をずっと取り込もうとしてあれこれ動いていたんだぞ。お前を殺そうとする動機が存在するのか?」

 「取り込めないのなら、いっそ、という考え方がある。そうだろ?」

 ケインは首を振った。「やれやれだ」

 「だが、確証はない。大臣のどちらかもしれないし、まったく別かもしれない。確かなのは、こいつらが人間であること。俺たちには魔族以外に人間の敵がいるってことだ」

 リオンはケインの肩に手を置いた。

 「とにかく、ここはこのまま立ち去ろう。下手に騒ぎ立てて、こいつらを殺したことが何かの罪に問われるようになると面倒だ」

 「俺たち、自分の身を守っただけだぜ?」

 「俺たちを襲わせた奴は、これで引き下がるとは思えない。これを事件として、俺たちを責める材料にするかもしれないんだ。ここは相手の出方を見るためにも、こいつらをこのままにしておくのがいいんだ」

 「……出方を見る、か。今のところ、俺たちがやったという証拠はないはずだ。それなのに、この件で俺たちがやったと騒ぐ奴がいれば……」

 「それが俺たちの敵の正体だろうな」

 ケインは納得した。「わかった。じゃあ、こいつらはこのままにして、さっさとずらかろう」

 こうしてふたりは、死体をそのままに立ち去ったのだった。

 翌朝、それとなく街の様子を尋ねてみたが、高級住宅地付近で殺しがあったという話は聞こえてこない。襲撃者を手配した者は、現場の始末もしたようだった。昨夜の街は何事も起きなかったことになっているのだ。

 そこで、リオンは作戦の相談と称して、審議室に集まっていた大臣たちを訪ねたのだった。何食わぬ顔を彼らに見せることで、反応を見ようとしたのだった。……結果は肩透かしで終わったようだ。

 「これで手詰まりだな。敵さん、思ったよりシッポをつかませないほど利口ってわけだ」ケインは苦々しげに言った。

 「あのぼんやりとした左大臣さえ反応なしでは、大臣のセンはないってことかな」

 リオンは首を振った。「確定はできないな。昨夜の首尾を聞いていないのかもしれないし」

 続けて、「襲撃に失敗した連中は、すぐに報告なんてしたくないだろうしね」とつぶやくように言った。

 「リオン。この戦い、一気にキナ臭くなってきたぜ。内に敵がいる状況では、まともに戦えないぜ。俺たちの軍団編成はいったん白紙に戻して、俺たちの小隊パーティだけで魔族を狩っていく方法に戻さないか? 世間が勇者再誕を広く認知できるようになってから、改めて軍団編成を考え直せばいいじゃないか」

 リオンはケインの提案に首を振った。

 「いや、それが敵の狙いかもしれない。とにかく、俺のことを排除したい者は、俺が身を引くよう圧力をかけていく気なのだろう。その場合、こちらがただ身を引くだけでは許さないはずだ。二度と陽の目を見ることができないよう、徹底的に潰しにかかるだろう」

 「進むも地獄、引くのも地獄」ケインは呆れたようにつぶやいた。

 「どっちにせよ地獄だと言うのなら、俺は進むほうを選ぶ。そっちのほうが現状を打開できるかもしれない」

 「今、この隊のリーダーはお前だ。お前が決めたことに俺は従うだけさ。進むって言うのなら、進んだ先の地獄にもついて行ってやるぜ」

 「まぁ、地獄に向かうことがないよう道には気をつけるさ」

 リオンは階段を降り始めた。ケインはリオンを呼び止めた。

 「おい、そっちには俺たちの部屋に通じる道はないぜ。外に出る気か?」

 「城外には出ないさ。これから闘技場で入団審査が行われるそうだ。俺たちの仲間に入れたくなるような面白い者がいるかもしれないからな。見物に行くのさ」

 リオンは軽く手を振ると、そのまま階段を下ってしまった。後に残されたケインはぼんやりとしていたが、我に返ると慌ててリオンの後を追った。

 「おい! 俺も行くぞ! 俺だって見たい!」

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