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Ragnarok of braves ~こちらメリヴェール王立探偵事務所 another story~  作者: 恵良陸引


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鉢合わせ【scene3】

3


 「たった1日で盾をボコボコにするって、どんな下手な戦い方をしたんだよ、まったく」

 バンダナを頭に巻いた若者が小さな盾を手にレトとルッチを見つめていた。バンダナの若者メリクは、勇者の団に随行している支援要員のひとりで、防具の整備を請け負っていた。出立直前、レトとルッチが城内の防具屋で見かけた若者だ。

 「すみません」レトは頭を下げた。メリクは呆れたようなため息をついた。

 「頭を下げるなって。防具の整備はオレの仕事だ。こんなの、いくらでも直してやるさ。でもな、防具の使い方が下手ってことは、身を守るのが下手ってことだ。こんなんじゃ、すぐおっぬことになるぜ。気をつけるんだな」

 「気をつけます」レトは素直にうなずいた。

 「あんたは団員の中じゃ身体が小さい。この小さい盾でも装備するベルトがしっかり留められないようだから、修理だけじゃなく、あんた用にいじってみた。これで使ってみてくれ」

 「ありがとうございます」レトは礼を言って盾を受け取った。

 メリクは続いてルッチに顔を向けた。

 「仮面の兄ちゃんは大丈夫か? 鎧の調子でも見てやろうか?」

 ルッチは手をひらひらと振った。「いや、俺は今のところ間に合ってるよ。また、用事ができたら頼むわ」

 「ああ、それじゃ」メリクも手をひらひらと振った。

 レトたちはメリクの前から離れると、馬車の荷台から降りた。メリクの工房は、1台の馬車に拵えられているのだ。

 「あいつ、腕がいいな。あれだけ変形していた盾を見事に打ち直しているぜ」

 レトの盾をのぞき込みながら、ルッチは感想を口にした。レトはうなずくと、盾を左腕に装備し直した。

 「何か、使い始めたときより、腕になじむ感じがします」

 レトは二の腕につけた盾の様子を、腕をいろいろな角度で動かして確かめていた。盾はぴたりと腕に吸い付いたようで、変にぐらつくところは見られなかった。

 「お前用にいじってみたって言ってたな。あいつ、ほんと、いい職人だぜ」

 ルッチは素直に感心した。

 「次の戦いには小言を言われないよう、大事に使います」

 「おいおい、盾を守って自分が傷つくなんてことないようにしろよ」

 ルッチがレトのつぶやきに突っ込んでいると、ふたりの目の前にザバダックが通りかかった。ふたりは立ち止まった。ザバダックはスタスタと通り過ぎていく。

 去って行くザバダックの背中を見ながら、レトはルッチに話しかけた。

 「ルッチさん、どうかしましたか? 参謀に何か気にかかるところでも?」

 「おい、今は話しかけるな。こっちを見たらどうするんだ」

 ルッチは小声でたしなめるように言うと、レトの腕を引っ張ってザバダックとは逆の方向へ歩き始めた。レトは引かれるままルッチについていく。

 「レト。お前に頼みたいことがある」

 「何です?」

 「俺が何かに動揺するところに気づいても口にしないでくれ。お前は変にカンがいい。仮面で表情を隠しているのに、お前はすぐ気づくところがある」

 「わかりました」

 「それと、俺は参謀と顔を合わせたくない。鉢合わせしそうになったら、避けることに協力してくれ」

 レトはルッチの頼みに首をかしげたが、「それも、わかりました」と答えた。

 レトたちが歩み去るのを、ザバダックは立ち止まって見つめていた。ふたりがアングリアの城門をくぐって姿が見えなくなると、ザバダックは正面に向き直った。

 「……気のせいか? どこか聞き覚えのある声がしたと思ったが……」

 ザバダックは首をかしげながら再び歩き始めた。


 レトたちがアングリアに入ると、街は慌ただしい雰囲気だった。

 街には住民はひとりもいない。いるのは『勇者の団』の団員か、支援部隊のひとびとだ。彼らがいっせいに街へ出て、右へ左へ早足で歩いているのだ。駆け足で移動している者もいる。

 ルッチはその中にチェンの姿を見つけた。ルッチが声をかけると、チェンはふたりのそばに駆け寄った。

 「いったい何の騒ぎだ?」

 ルッチが尋ねると、チェンは「知らないのか」というような、やや咎めるような表情を見せた。

 「急ぎ出陣命令が出たんだ。俺たちはアングリアを出立しないといけない」

 「出陣? どこへ?」

 「メネアだ」

 レトは入ってきた城門を振り返った。つまり西の方角で、その先にメネアがある。

 「メネアですか。アングリアを取り戻したから、僕たちは背後を気にすることなくメネアに向かえますね」

 「しかし急だな。敵はメネアに向かっているのか? つまり、チリンスの丘は敵に獲られたってことだよな?」

 チェンはうなずいた。

 「詳細は知らないが、どうもそうらしい。さっき、王国軍の兵士がひとり、司令部に入っていった。おそらく敗戦の知らせをもたらしたんだと思う」

 「チリンスの丘を守っていたのは誰だったんだ? あそこを抜かれると面倒だってわかっていただろうに」

 ルッチは顔をしかめた。チリンスの丘は交通の要衝のひとつだ。丘を中心にいくつもの街道が分かれている。街道は四方へと広がり、それぞれが、コリント、アッチカ、アングリア、そしてメネアへと伸びていた。コリントとアッチカは街の規模としても大きく、商業が盛んで人口も多い。メネアは、千年前に人類が魔族と戦った軍事基地跡がそのまま町になったものだ。もともとが要塞なので、規模は小さく、人口も少ない。交通の便が悪いこともあって、商業も振るわない。一方で、鉄や銅などの鉱物が取れるので、町はそれなりに存在の意義を示している。チリンスの丘を抜かれるということは、これらの街に敵の脅威が及ぶことを意味するし、王国軍は分散して防御を固める必要が生じるのだ。それは奪還したアングリアも含まれる。

 「俺たちがアングリアを離れたら、ここはどうなる? このまま空き家にして置いて行っちまうのか?」

 ルッチはあたりを見渡しながら尋ねた。アングリアを奪還してから、彼らは街の探索や修復に従事してきた。勇者が放った『聖光十字撃グランド・クロス』で壊した城門も直したし、司令部近くの建物のがれき――これも勇者の技によって壊されたものだが――も撤去した。街は確実に復興へと進み始めているのに、出陣によってアングリアが再び敵の手に落ちたら、これまでしてきたすべてが水の泡だ。ルッチの懸念は当然と言える。

 「撤退する王国軍の一部がアングリアに入るらしい。それと、もともとここに駐留する予定の王国軍も王都から到着するから、ここがみすみす敵に獲られるなんてないと思うよ」

 チェンがルッチの心配を払しょくするように説明したが、ルッチの表情は曇ったままだ。それはレトも同様だった。ふたりの顔色を見て、チェンは「……ってカイルが言ってたよ」と苦しそうに付け加えた。

 「……で、俺たちはメネアに向かうのか。しかし、何でメネアだ? たしかにアングリアから向かうことのできるのはメネアしかないかもしれないが……」

 「アングリア脇に流れる運河を使えば、コリントへは向かえるかもしれません。ですが千名を超える人員を運ぶ船が調達できないのでは?」

 レトが考えるようにつぶやいた。レトの考えを聞いて、ルッチは「それなら、ここアングリアからチリンスの丘に進軍して、四方から丘を奪還するほうが良くないか?」と言った。

 「そうしないのは、敵はすでに三方に分かれて進軍しているからだ」

 不意に声が飛んできて、三人は声のしたほうへ顔を向けた。そこにはウィル・フリーマンが歩み寄る姿があった。

 「隊長は詳細をお聞きなのですか?」

 レトの問いにウィルはうなずいた。

 「ざっくりだがな。味方も敵の様子を詳しく把握できているわけではないからな。ただ、丘を抜けた魔侯軍は、アングリアに兵を向けるわけでなく、三方に分かれて進軍を開始したということだ。王国軍の主力はコリント、アッチカに分かれて守備についたそうだ。メネアには王国軍から2千の軍が守備に回っている。私たちはその2千の軍の応援に向かうというわけだ」

 「たった2千? 王国軍はメネアを守る気はないのですか? いや、それほど王国軍は兵力を失ったのですか?」ルッチは驚いたように叫ぶと、矢継ぎばやにウィルを質問攻めにした。丘を守っていた王国軍は援軍と合わせて4万を越えていたはずだ。コリントやアッチカほどの重要性がないと言ってもメネアに対する王国軍の軽視ぶりはひどいように思える。メネアまでに兵を送る余裕がないのであれば理解できるが、そうだとすると王国軍の損害がどれほどか気になる。

 「幸い、王国軍の損害は小さいらしい。指揮していたのはランブル将軍さ。大きな痛手を受ける前に撤退を決めたそうだ。ランブル将軍らしい采配だな」

 「あの弱腰将軍が……」

 ルッチは悔しそうに唇を噛みしめた。ランブル将軍は「鉄壁将軍」というあだ名で守りの名将とされる。ルッチにとっては「逃げの迷将」だ。不利と見ればすばやく撤退するので、味方の損失は小さい。小規模の魔族の襲撃であれば、その戦略は有効な面もあっただろう。しかし、今回は万を超える軍隊が攻めてきたのだ。そんな敵にいつまで「逃げ」が通用するというのか。撤退する際には必要物資を根こそぎ持っていくので焦土作戦にはなる。補給のない状態になれば敵も攻め疲れて撤退する――将軍の狙いはそこなのだろうが……、ルッチはそれでは周囲の街や村の人びとが苦しむだろうと心配になった。将軍の作戦は敵だけでなく、守るべき民も飢えさせることになるのだ。将軍の作戦は両刃の剣である。しかも刃はこちら側のほうが危険な切れ味だ。

 「敵の主力がこちらに向かっていないと言っても、ここをわざわざ無人にはしない。アングリアにも守備兵を置くことになっている。そして、メネアは元々要塞だっただけに守備力が高い。寡兵でも十分戦えるはずだ。あまり後ろ向きばかり考えないほうがいい」

 ウィルの話し方はどこかなぐさめるような響きがあった。納得できたわけではないが、ルッチはそれ以上を口にしないと決めて黙った。隊長と言ってもウィルに命令や作戦を変える決定権はないはずだ。ここでメネアに向かうべきか、チリンスの丘を獲るかの議論は意味がない。

 「メネアに行くのは初めてです。メネアはどんなところなのですか?」

 レトは西に目を向けて尋ねた。

 「メネアは鉱山町さ。山岳部の中腹に町がある。曲がりくねった山道が多いから、直線距離では近くても、ここから向こうへ着くのは時間がかかるな。それでも、チリンスの丘からメネアに向かう敵よりは早く着くことができるはずだ。チリンスからメネアへ通じる街道は途中で終わってしまうんだ。山道になれば、あっちのほうが道は悪い」

 「それで俺たちの軍が先回りしてメネアの防衛に加わると」

 「そういうこと」

 ルッチの発言にウィルはうなずいた。ウィルは両手をぱんぱんと叩くと、3人に向かって大声を出した。

 「さぁ、次はメネアだ。出陣の準備を急ぐぞ!」

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