理由【scene14】
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「やったわね、レトちゃん!」
客席に戻ったレトにガイナスがにこやかな笑顔で迎えた。
「ただいまです」レトは頭を下げた。
「意表を突かれたよ。あんな奇襲で倒しちまうなんて」
ルッチはレトの肩に手を置いた。
「あの場の思いつきだったのですが、うまくいきました」
「あいつの脚を軸にして一周回ろうなんて、思いついても実行しない。どうして、試す気になった?」
「あら、アタシはわかる気がするわよ」ガイナスが口を挟んだ。
ルッチはガイナスに顔を向けた。「わかる?」
ガイナスはうなずいた。
「さっき、あなたはレトちゃんとあの大男がやり合って、レトちゃんが出し抜いたことを話してくれたじゃない? つまり、あのデカブツはレトちゃんが死角になる左から斬りかかることが印象に残っているはず。でも、レトちゃんは相手の脚を取って、右側から回転した。あのとき、デカブツが戸惑ったのは左を警戒しすぎて、右側の攻撃に備えていなかったからよ。レトちゃんがすばやく一周する間に、相手は背後からの攻撃を恐れて振り返った。あの場合、本来なら右の視界から消えると、左の視界に入り込んでくるからすぐバレる。でも、あいつは左が死角になっているから、背後ではなく正面に戻ったレトちゃんを左の視界に捉えることができなかった。それで致命的なスキを作ってしまったのよね。レトちゃんはそこまでの勝算が立ったから試したんでしょ?」
ガイナスの解説にレトはうなずいた。「まぁ、そんなところです」
ルッチは腕を組んだ。「お前、変な戦い方をする奴だな」
「あら、レトちゃんのように、何事も圧倒的に不利なのは、こういう知恵を使うしかないわ。むしろ、この知恵はどんな強敵にも通じる武器になる。アタシはレトちゃんのこういうところ、気に入ったわ」
「ありがとうございます」レトは再び頭を下げた。
ルッチは腕を組んだ姿勢のまま、レトを見つめていた。レトは腕力も剣技もずば抜けたところは見られない。しかし、レトは瞬時に相手の苦手なところを見抜いて、そこを突いた戦い方をする。もし、自分がレトの対戦相手だったら、負ける気はしないが、勝てる気もしない。もし、自分のクセや苦手を見抜かれて攻められれば、この入団審査はどうなっていたことだろう。たしかにレトの知恵は脅威だ。
「あんな見事な戦い方を見せられたんだ。お前も入団確実だろうな。俺も後に続くぜ」
ルッチは組んだ腕をほどきながら言った。
「あら、やる気あがってきたみたいね」ガイナスが目を細めた。
「まぁね。あんなの見せられたら、俺だって、って思うさ」
会場に次の対戦者を呼ぶ声があがったのは、ちょうどそのときだった。
「次の対戦者、ルッチ、ウザ。両名、中へ」
ルッチはぐるんと腕を回した。
「出番だ。行ってくるぜ」ルッチは塀を乗り越えて、闘技場へ入った。
「応援してます」レトが声をかけた。ルッチは振り返らずに手を挙げて応えた。
「俺の相手はお前か……」
ルッチと対峙したウザはぎらぎらとした目つきでルッチを睨みつけた。
「相棒は残念だったな。あれはたぶん不合格だぜ」
ルッチは木剣で自分の肩をトントンと叩きながら言った。
「で、あんたは辞退しないのか?」
「そうだな。俺はもう義勇兵なんかやる気はねぇぜ」ウザはぎりりと木剣の柄を握りしめる。
「だがな、俺たちにもメンツってのがあるんだ。何もせず辞めちまったら、俺たちの評判はガタ落ちだ。本業の依頼に響いちまう」
「なるほど。つまり、俺をぶちのめして、メンツを保ったままここを離れたいわけだ」
「物分かりがいいな。仮面野郎!」
ウザは木剣を振り上げた。ルッチはとんとんと後ろへ下がって、ウザから距離を取った。
「ウザさんよ。あんたは俺をぶちのめすことはできないぜ。なぜなら、あんたは俺に勝てないからだ」
「何だと!」ウザは息巻いた。
ルッチは指を3本立ててみせた。「あんたが勝てない理由は3つある」
「そんなの知るか!」ウザは剣を振り上げたまま飛びかかった。
「ひとつ目」ルッチはウザの攻撃をかわした。
「あんたはレトとやり合ったときに、自分の構えや打ち込み方など俺に見せた。つまり、俺はあんたのクセがわかっているから避けることもできる」
実際、ルッチはウザが繰り出す攻撃を次から次とかわしている。いくらもしないうちに、ウザはぜぇぜぇと背中を上下させるようにして息を切らした。
ウザの動きが鈍くなるや、ルッチは姿勢を低くしてウザの懐に飛び込んだ。ウザは慌てて防御の構えを取る。
「ふたつ目」ルッチはウザの構えている剣を下から突き上げた。ウザの両腕は軽々と弾かれて胴ががら空きになった。ウザの顔から血の気が引いた。
「俺の戦い方をあんたは知らない」ルッチは胴に突きを喰らわせた。ウザは後ろへ飛んで、かろうじて一本取られるのだけは防いだ。
「最後の三つ目。これが重要かつ、絶対的な理由だ」
ルッチは木剣を握り直すと、さきほどとは違う構えを取った。中段の構えから上段に構えたのだ。ウザは後ろへ飛びのいたときに、着地でふらついていた。慌てて受けの構えを取ろうとする。ルッチは一気に間合いを詰め、同時に剣を振り下ろした。ウザは木剣を横に構えて受け止めようとしたが、まったく力が入らないようだった。受け止めた剣がそのまま自分の首筋に喰い込んだ。ウザは信じられないような表情を浮かべながら地面に倒れた。審判はすばやく手を挙げた。
「勝負あり! 勝者、ルッチ!」
ルッチは倒れたまま動かないウザの背中に向かって声をかけた。
「あんたが勝てない理由、三つ目。それは、『俺はあんたより強い』だ」




