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今夜、十六夜の見える丘の上で  作者: 書常 時雨
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夜空の十六夜に願いを込めて

もし十六夜が僕の前に現れなかったら暁と日出と僕は出会ってなかったかもしれない。夜空の十六夜を病院の窓から眺めて彼女を思い出していた。医者はもうそろそろだと言っていた。逆子でもなく母親も丈夫で出産を迎えられたらしい。「よくこの状態で病院に来てくれました。あなたなしではここまで丈夫で来れませんよ」お義母さんと医者にそう言われたがもし万が一のことを考えると不安で不安で落ち着かなかった。こんな時にアイツがいてくれればと心の中でそう思った。忙しいことは重々承知だがダメ元で頼んだお願いだ、来れなくても仕方がないと感じていた。

その時、「なに不安そうな顔をしてるんだよ、義兄さん!」と懐かしい声がした。

「お!日出!久しぶり!てか、義兄さんって呼ぶの止めろ」

「いいじゃんいいじゃん、これからパパになるんだし子どもに悪影響を及ぼすかもしれないからね〜」

「少なくともお前に抱っこされたら悪い影響は出るだろうな。サッカーは除くけど」

「え〜、俺聞こえたんだ。お腹の子が『伯父さんに抱っこされた〜い』ってね」

「幻聴でも聞こえたんじゃないか?」

「殴るぞ」

「はいはい、レッドカード出されるぞ」

「サッカー小ネタ出してくるなよ」

日出は軽く鼻から息を吐くように笑った。

「そういや、古巣相手にゴール決めたな」

「ああ。複雑な気持ちだよ」

「大阪行っても活躍してるな」

「おかげさまでな」

「そろそろ日本代表にも選ばれていんじゃね?」

「そりゃ気が早いっすよ」

「まさかお前がサッカー選手になるとはな」

「これも全てあの夜のおかげだな」

「やっぱり、あの夜は僕たちを変えたのかな」


俺たち4人は十六夜が帰るまで楽しんだ。普段なら11時にもなると眠気が襲ってくるがそれも全く感じず外で日をまたいだ。

「そろそろ時間だね」

暁が寂しそうにそう呟いた。

「えへへ、もうこんな時間だね」

笑って誤魔化していたが十六夜は目を潤ませていた。

「私ね、俊1人に私の記憶を抱え込むことはしたくないってことで2人を誘ったじゃん?」

「うん」

「他にも言いたいことがあったの。2人に」

「そうなの?」

暁はそのようなことを言われる気もなくてどこが?という顔をしながら言った。

「暁ちゃん、暁ちゃんって俊のこと好きなんでしょ?お似合いだよ!2人とも。結婚して欲しいくらい」

「そんな…そんなことないって」

「ま、私と俊が1番お似合いだけどね!」

十六夜は暁に渾身のドヤ顔をした。

「次に日出君!」

「ん?」

「日出君って意外と頑張り屋だよね。人に努力を見られたくないから1人で頑張ってサッカーや勉強してるの分かるよ。もっと頑張ってサッカー選手になってほしい」

「いや、そんな…そんなこと言うと照れるだろ」

「けど勉強は相変わらずだけどね」

少し小馬鹿にする口調で日出に向けて言った。

「そして、俊」

涙を堪えながら自分の言葉を身体全身を使って絞り出した。

「一昨日も言ったけど俊には助けられたよ。本当にありがとうって伝えても伝わらないくらい」

もう涙は零れていた。十二単にポロポロと1粒、2粒落ちては染みて消えていった。

「またいつか何処かで会おう」

「うん、また会おう!」

俊の目からも涙が零れていた。保証はないけどまたいつか、何処かで会えるような気がした。


日付が変わって40分が経った頃、夜空が真昼のように明るくなって十六夜が光り始めた。

「そろそろだね」

3人に背を向けていた十六夜がこちらを向いた。

「俊、分かってたと思うけど大好きだよ」

「うん、分かってたよ」

「元気でね」

「うん」

いざお別れとなると気持ちの整理がつかず素っ気ない会話しかできなかった。

十六夜が光に包まれ、十六夜の儚くて小さな身体の輪郭がどんどんぼやけてやがて見えなくなった。その後一気に暗くなり何事もなかったのようにブルーシートの上には残ってしまったお茶と食べかけのお菓子、十六夜が飲んでいた缶ココア、空になったコーラのペットボトルが転がっていた。もう全てが終わってしまったんだ。「日常」の一部分だった十六夜は遠いどこかへと行ってしまった。それでも日が昇って新学期が始まる。再び行きたくもない学校へ行く日々が始まるんだ。「日常」の欠けた狭い世界でまた俊の時計は動き出していた。


その後、日出は大学へ進学しその後プロサッカー選手へとキャリアを進め、俊と暁は付き合っては別れるのを何度もした。俊が県外の大学へ進学し遠距離恋愛は難しいから、俊が女の同僚とご飯へ行っていたところを暁が発見し誤解をしたから、日出が県外のクラブチームへ行くから………。どれも別れる原因と理由はとてつもなくどうでもいいことだった。それでも最後は2人で結婚しその2人の間に新しい命を授かった。日出は大阪の有名クラブで背番号11番を付けて今でもチームの最前線でゴールを狙っていた。今日は我が県を代表するサッカークラブと対戦だった。結果は2-0で大阪のクラブが勝った上に日出がゴールを決めた最高の日となったのだ。


心配でいても立ってもいられなかった俊に綺麗な鳴き声が聴こえてきた。

「あれ?…産声じゃないの?」

「多分、そうだと」

驚いて日出はガタッと音を立てて2人用のベンチから立ち上がった。確かに聞こえてくる産声。姿は確認できないがとても元気な赤ちゃんが産まれたらしい。まず最初に暁に思い切り感謝の気持ちを伝えようと決めた。

「おめでとう!!良かったじゃないか!」

「ありがとう。次はお前の番だな」

「死ぬまでには見れるように努力しまーす」

「あと数年後には」

「いや、無理だな」

今度は僕が鼻先で笑った。俺は今日からパパなんだ。パパなんだ。


「ねえねえ、このアザ何だろう?」

「どこにあるの?」

暁は産まれて数日後の赤ちゃんの顎の下を指差して俊に見せた。

「これって」

俊が一呼吸置いて

「十六夜も同じアザがあった」

「ねぇ、まさか…」

身体中に鳥肌が立った。生まれつきアザがあるってのはたまに聞くが偶然にも同じ場所、同じ十六夜のような形のアザだった。

「この子、十六夜ちゃんじゃないの?」

「そんな気がする…。というかそうだろう」

信じられない。それが暁と俊が思ったことだった。

「十六夜らしいな」

「え?」

「こうやってまた俺らに会いに来たってところ」

「でも素敵じゃない?」

「ほんとな」

「十六夜ちゃん、どれだけ俊のことが好きだったのかこれで分かったよね」

「まあな」

「そうだ!この子の名前は十六夜でいいかしら?」

「異論なし」

2人はお互いの顔を見て微笑んだ。

「この子が産まれてきたら俺らが産まれる前に決めていた名前がバカバカしくなっちゃうね」

「好きな俳優と女優だもんね」

「まりえと」

「賢人」

おかしくなった。こんなにも可愛い娘が産まれてきたら無意味な名前を付けようとしていたことが申し訳なく無知だったと感じていた。

「ねえ、俊」

「ん?」

「正直忘れられなかったでしょ?十六夜ちゃんのこと」

俊は意外な質問に少し戸惑ったが「うん、正直ね」と答えた。

「知ってた」

「ごめんね」

「ううん。浮気された方が何十倍も辛かったと思う」

「十六夜のことが忘れられなくて暁には申し訳なかったから浮気だけはしなかった」

「だから同僚の人と2人きりで歩いていたときは腹が立った」

「あれは本当に潔白な同僚だからね?あっちだってもう結婚してるし」

「分かってますって」

ここ最近は晴れの日が続いていて月も病院の窓から良く見えた。もうそろ半月まで細くなろうとしていた月を2人は未来と一緒に見つめていた。

「ねえ暁」

「何?」

「愛してるよ。産まれてきた十六夜と一緒に」

「私も。とてもクサいけど愛してるよ」

2人のそんな会話を聞いて暁の隣にいた十六夜は笑っているように感じた。

これで「今夜、十六夜の見える丘の上で」の連載が終了しました。処女作とあって不甲斐なさを感じながらも初めて完結までたどり着いた物語です。

今まで読んでくださって誠にありがとうございました!もしこれからも読んでくださるなら変わらず応援いただけると幸いです。「受験生」として「作家」として精進いたします。

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