もしもう一度会えたら伝えられただろうか
貴方が教えてくれた光を頼りに歩いてきたつもりだった。
ここは何処だ。真っ暗で、かなり前から進んでいる感じがしない。たしかに俺は歩いているのに、足は前に進めているはずなのに、何故かどうしても進んでいると思えない。それでも進むしかなかった。進んでいる手応えがなくても、たとえ進んでいなくても、進もうとしなければならなかった。貴方が光を見せてくれてから、あの時から俺はその光を目指して進むことしか出来なくなっていた。
貴方の光に、目を奪われた。
「これは、君の協力が無かったら完成しなかったものです。ありがとう」
そう微笑む貴方がまた美しくて、綺麗だ…と思ってしまったことに驚いた。それと同時に綺麗だと思ったことが嬉しくもあった。それは暖かく残酷な想いだった。
光を目指して歩いてきたのに、真っ暗だ。
それでも、俺は進むことをやめなかった。この先に、貴方が、想い人が居ることを確信していた。貴方はまだ光の中に居るだろうか。もし、そうでない、今俺が歩いているような真っ暗なところで必死に歩いているなら初めてあった時のように手伝ってやればいい。暗さに怯えて蹲っているなら手を引いて光の当たる所まで連れて行こう。今度は俺が貴方を救おう。この想いは伝えなくてもいい。伝わらなくていい。貴方の近くに居られなくてもいい。貴方が光の中に居るために必要ならば俺は終わりのない暗い道を歩き続けることだってできる。ただ、もう一度だけ会うことを許してくれないか、いいや、会えなくてもいい、ただ一言だけ伝え忘れたんだ。
「貴方の描く線が、色が、絵が好きだ」
と。
暗闇で蹲っていた画家は目を開けて顔を上げた。
いつもの、自室の風景だった。キャンバスの隣に小さな写真立てがあった。その中の自分と写っている男を見た時、創作意欲が湧かずスランプに陥っていた画家は自分の中で何かが吹っ切れた気がした。
「やはり、君の協力なしでは私は描けないみたいだ」
写真の中の男に言う。
「君に、僕のこの酷く醜い欲を、あたたかい気持ちを、この苦しさを、想いを全て打ち明けてしまえばよかった」
写真の中の男は、6年前さよならも言わずに死んでしまった画家の唯一の親友だった。
画家は、描き始めた。死んだ親友を思い出しながら、自分の中に残っている彼の姿をなぞりながら、それが愛おしいとでも言うように丁寧に筆を動かし始めた。
互いが、互いを愛していたのに。
亡くなった親友と画家は両想いでした。
それだけです。
好きな人には想いを伝えたいものです。




