第8話 影血の主
クラインの西、深い森の中で、俺たちはミニボアを探していた。正直、1人で瞬殺できるのだが、俺たちは今Dランクパーティーという名目だ。クエストとしてはDだが、ミニボアは単体でD+なのだから、普通の人族なら到底1人では敵わない。だから普通の冒険者を装うために、テス以外の4人で来ている。なにせ幼女連れで戦闘は些か外聞が悪いし、本人の要望もある。自身を隠すための幻術の練習をすると意気込んでいた。
怪しまれないよう、時間をかけるためにスキルを使わず1時間ほど探索したのだが、未だミニボアは現れず、ゴブリンばかり出る。
俺は剣を無造作に振るうが、【武術LvMax】とerrer筋力によりゴブリンは真っ二つになる。に、対し、俺や剣には返り血が付いていない。なぜだ。これも【武術LvMax】のせいか?モナが使っているハンマーやフィスのレイピアには血が付いているというのに。いや、付けたい訳ではないんだけど。
俺は剣、モナはハンマー、エルは杖、フィスはレイピアを使っている。正直なくても全員余裕なのだが、持っていないと違和感があるから適当に持たせた。
装備はこんな感じ。
名称:魔剣 大鎌鼬+99
種類:両手剣・魔剣
状態:最高品質
効果:【風属性付与・大】【攻撃強化・小】【俊敏強化・中】
特殊スキル【風刃衝波】風の刃を飛ばす。魔術構築0秒。
粉砕之爪槌+99
大槌・魔槌
最高品質
【地属性付与】【地属性強化・大】【攻撃強化・中】
魔光の軌跡+99
片手杖
最高品質
【魔力増幅】【攻撃強化・小】【全属性強化・大】
都の守護者+99
細剣・魔法剣
最高品質
【全補正強化・大】【破壊耐性】
ちなみに言っておくと、強化とある「攻撃」「防御」「俊敏」はステータスとはまた別の補正値だ。例えば、ATは体を使った物理攻撃のみで効果が出るが、「攻撃」は物理攻撃も魔法攻撃も強化される。
そして、補正は数値として現れないし(もともと俺のステータスは数値化されてすらいないが)、強化の量もその効果によって違う。
ついでにもう1つ。大鎌鼬は両手剣とのことだが、思い切り片手で使ってしまっている。だって軽すぎて逆に両手じゃ扱いにくい。まあ、両手でも【武術LvMax】の補正でなんとかなるんだろうが。
それと、魔剣と魔法剣の違いは特殊スキルがあるかないかだ。特殊スキルはピンからキリまであるが、強い奴はマジで強い。大鎌鼬は強い方である。それでも人に驚かれないようにインベントリから適当に出しただけだけどな。
「そういや、【影血之主】の実験してないな。してみるか」
「シャドウブラッド、ですか?」
「ふむ…聞いたことがありませんな」
「ああ、俺の新しいスキルでな」
一応、見たことのないスキルだったので、先日詳しく鑑定はしたのだが、
固有能力:【影血之主】
概要:カースヴァンパイア固有スキル【血之支配】、魔王、国王専用スキル【叡智之王】の上位互換スキル。
効果1:影を操り、物質化する。硬度なども変化でき、自分の影以外も扱うことができる。魔力と術式を込め、自動で動かすことも可能。影に入ったり、影から影に転移するなど、隠密スキルとしても使える。魔力吸収能力がある。媒体を使用することで魔力を効率化できる。
効果2:血を操る。正確には血に含まれた魔力を操るので、魔力を抜かれると機能せず、魔力があれば何の血でも機能する。自身を強化することも可能。
効果3:民(配下)を纏め上げる。信頼を得やすい。カリスマ性が上昇。精神強化。
「どんなスキルなの?」
小首を傾げながらテスが聞いてくる。俺はそんなテスの頭を撫でながら、
「化け物」
ぼそっと呟いた。
「っていつからいたんだよテス!」
全く気付かなかった…
「幻術の練習したの!みんなから見れないようになったよ!」
かわいいなぁ…幼女…こりゃ捕まるわ…
「テスだけ撫でてもらえるのはずるいですわ!私も撫でて下さいまし!」
「お前はテスと同い年か」
呆れながらエルに問うと、
「「同い年ですわ!(だよ?)」」
そうだった。見た目は全く違うが、同い年なのだ、この2人。
「───よし、ミニボア探すか」
「無視しないで下さいまし!!」
あ、モナが頭からこけた。
「無傷です!」
大丈夫か、こい(ry
とか、なんとかやってるうちに、お目当てのミニボアが見つかった。のだが、
『スキル【鑑定LvMax】を起動します』
Race:ミニボア
State:石化
Title:(無)
Lv9
etc.
特に見るべきは、State《状態》の石化だ。石化魔法を使うのは人間か、魔物ならコカトリスやバジリスク…
『スキル【探索LvMax】を起動します』
いた。洞窟に3匹。バジリスクはBランクのトカゲ型魔物だ。俺から見たら雑魚ではあるが、
「ここの街の者には荷が重いだろうな」
「では、このフィスめが行って参りましょう」
フィスが進言する。
「いや、俺が行く。ちょうどスキルも試したいしな」
バジリスク程度なら簡単だし、スキルも使いこなせるようにならないとな。
それに、街にほんの少しだが、愛着を持ってしまった。この体になってからあまり感情の起伏が少なくなっていたが、知り合った者にはどうしても感情が生まれるのだ。
魔王失格だな。
「フィス達は先にミニボア狩って帰ってくれ。行ってくる」
「「お気をつけて」」
「がんばってね〜カイト様!」
「行ってらっしゃいませ。ああ、なんだかこの言葉は妻みたいですわ」
普通の配下なら主を止めようとするだろうが、こいつらは違う。俺の強さをどこまでも信じているのだ。まあ、俺が万が一死んだら全員世界を滅ぼしてから自殺するみたいなこと言ってたけど。
というかエルやめろ。腰をクネクネ振るな。
軽く走って1分もかからず到着した。軽くなのに、森の中をバイクで走った気分である。
洞窟の前には石化した魔物の死骸が置いてある。あれがエサなのだろうか。
洞窟に入るとすぐ、バジリスクが現れた。
『スキル【鑑定LvMax】を起動します』
Race:バジリスク
State:良
Title:(無)
Lv39
HP:200/200
MP:269/390
AT:190
DF:500
SP:210
TE:39
Skill:【石化の魔眼】
結果は分かっていたが、弱い。Lv39はプレイヤーが3日で到達できるラインだ。
石化は面倒くさいが、目を見なければ問題ない。【探知LvMax】のおかげで敵の居場所も手に取るように分かるしな。
『スキル【魔法耐性LvMax】、【身体結界LvMax】を起動します』
───目を瞑る必要もなくなってしまった。どんだけ〜。──ゴホン。動揺しすぎた。
「キシャ!?」
ちなみにバジリスクは俺が石化しなかったので、驚いて硬直している。
『固有スキル【影血之主】を起動します』
その隙に俺は頭に浮かんだ文字の羅列を言葉にする。
「【影人形】」
すると、洞窟の影から黒の全身タイツを着たような……某少年探偵の犯人みたいな人型が現れ、バジリスクに襲いかかった。
「キシャァアア!!」
せっかくの魔眼も相手に目がないとなるとどうしようもなく、フルボッコである。ちなみに素手だ。
「おっと…【紅剣】」
バジリスクの傷口から、血を吸い取り、剣を模る。それを【影人形】に持たせ、真っ二つ。
「──エグいな…」
血の通っている生物なら、小さな傷口があるだけで血を吸い取り、ミイラにしてしまうことができる。そうでなくても影人形のスペックは素手でバジリスクの鱗を叩き割るほどだ。
自分の能力に呆れながら、バジリスクをインベントリにしまい、先へ進む。
「お、いたいた」
洞窟の奥に進むと岩化を部分的に解除して肉を喰っているバジリスク2匹を発見。そして、先程と同じように瞬殺した。
『【精神耐性LvMax】を起動します』
「うわっ…ゴホッゴホ……」
バジリスクすらこの程度かと、半ばやる気を失いながらインベントリにバジリスクをしまう時、ちらっと血に汚れた岩を見てしまったのだ。いや、岩ではない。
それは、石化された冒険者の成れの果てだった。