第7話 チンピラとフィスファンクラブ会長
短めです。
この街に来てから1日が経過した。
今はクエストを受注するため冒険者ギルドに来ている。いつのまにかフィスたちが薬草を集めまくっていて、受付に持っていくとランクはDまで上がった。これ買ってきてもいけるんじゃないか?ガバガバじゃんか。
冒険者ランクを上げる理由は簡単だ。Cランク以上は、他国や他の街へ入る時に制限がほとんどないからだ。禁止区域にも入ることができる。それに集められる情報も多くなるとフィスから聞いているし、一旦Cまで目指すことにしたのだ。
俺に羨望の眼差しが向けられる。ギルドにある酒場で昼間から飲んでいる男たちの眼差しだ。エルやテス、モナという美少女を連れているからだろう。それにフィスがこの街で何故か英雄なのもあるのかもしれない。だが、それ以外にも恨みをぶつけられていた。
何故ならもともと、俺はテスかエル、もしくは両方の護衛だと思われており(あまりにも貴族然としていなかったし、服装も質素なコートを纏っていたかららしい)、そこでフィスが俺のことを我が君とか言ったから、周りの人がえっ?てなるわけよ。それがこの小さな街に広がって、フィスの熱狂的なファンは俺に場所変われってなるわけ。
美女や美幼女ならまだしも、男はいらん!と。
今になって恨みの視線を向けてくるだけのやつが多いが、先日までは嫌がらせや、殺そうとナイフを持って特攻するやつまでいた。まあ、全部フィスに無力化され(ナイフちゃんは普通に捕まってた)、さらにフィスへの尊敬と俺への恨みの視線が集まった。
俺が倒して、力見せといた方が良かったと今頃になって思う。
閑話休題。
クエストボードを見ると、俺たちが受けれるクエストは3つあった。
ゴブリンの討伐
ランクD
達成条件:ゴブリンを3体以上討伐し、3つ以上の魔石を提出。
報酬:銀貨3枚。4つ目以降の魔石は青銅貨5枚で買い取ります。
概要:ギルド発注。常備クエスト。できるだけ多く狩って下さい。
ミニボアの討伐
ランクD
達成条件:ミニボアを1頭以上討伐し、討伐証明になる部位を提示。
報酬:銀貨2枚。部位は別途買取カウンターへ。
概要:ギルド発注。角、毛皮、肉など、余すところなく買取可能です。
治力草の採取
ランクE
達成条件:治力草を30本以上採取して提出。
報酬:青銅貨10枚。30本目以降の治力草は銅貨1枚で買取ります。
概要:南通りの薬屋「緑地」発注。
「あの店主のとこの治力草は論外だな。報酬が安い。あとは、ミニボアかゴブリンだが…」
「せっかくだから、イノシシいくか」
「了解しました。我が君」
フィス…気持ちは嬉しいが本当に我が君は止めてくれ…恥ずかしいし、何より周りから殺気が…
◇◆◇◆
昼のとある酒場のテーブル。そこには、いかにも荒くれ者のような男が3人座っていた。
「なんだったんだ?ありゃ…」
「ああ。どうにも違和感が…なんつーか、達観した感じでさ…」
「くそがっ!恥かかせやがって!」
今叫んだ彼は顔が赤面している。そろそろ酔いが回ってきたようだ。
それを見計らったように、カウンターにいた女性が話をかける。
「さっきの話聞いてたんですけど、それ、魔法をかけられたんじゃないですか?」
そう。彼らはカイトに《感情制御・色欲》をかけられたチンピラ3人組だ。無意識のうちにMPを注ぎすぎた《感情制御・色欲》をかけられた彼らは、今までの感覚を取り戻そうと、何かしようとしては罪悪感に押しつぶされて逃げるため周りから「痴態晒しトリオ」と呼ばれていた。
そして、今1番酔っている彼──クリオントはCランクかそれ以上の能力を持っているのだが、素行が悪いためにDランクで止められていた。だから、一瞬でカイトに追いつかれたこともイライラの原因であった。所詮、逆恨みである。
「魔法ってそんな魔法聞いたこともねーぞ」
「てかあんた誰だよ?」
女性はフードで素顔を隠したまま話し出す。
「私はフィス様ファンクラブ会長のメリアンです。以後、よろしくお願いします」
「「「 「フィス様ファンクラブ?」」」
突如意味のわからない言葉が出て来て困惑するトリオ。
「で?そんなフィギュアファイアボール会長サマがなんのようだ?」
「フィス様ファンクラブよ!!貴方に魔法をかけた、その男。復讐したくないですか?」
「はっ。言われなくてもやってやるさ」
「まあまあ。その男の隣に、いつもフィス様がいるのですが、あの方はとても強い。貴方たちでは歯が立たないでしょう」
「はぁ?俺の事舐めてんのか?C級何体もぶっ殺すくらいの力はあんぞ?」
凄むクリオントに全く動じず、メリーは瞳の奥をどす黒く燃やしながら口を開いた。
「では貴方はゴブリンキングをソロで倒せますか?」
「はぁ!?無理に決まってんだろ!あれはB+だぞ?」
「フィス様はそれを瞬殺しました。私の目の前で、この私を助けるために…」
フードの影から少し見える女性の頬は真っ赤に染まっていた。
男達は少々、いやめちゃめちゃにドン引きしながら、話を聞いていった。
太陽が降りる頃には、ニヤニヤしている3人の男とフードを被った女性が、密かに契約を結んでいた。