第5話 テンプレート
俺が人間の街に行くと言うと、エルに
「いけません!下等生物などが群がる国に行くなど!」
と言われた。いや、俺、元人間なんですけど…
人間は数が多いから情報が集まりやすいんだ、などと説得し続けること数分、なんとか了承してもらうと、
「なるほど、家畜どもを上手く使うのですか。流石はカイト様ですわ」
人間と魔族の間に何があったのだ……
ちなみに、人間とはエルフやドワーフなど亜人族と、人族の総称で、人族=人間というわけではないそう。
そういえば、そもそもここに何故人がいないのかと思い、聞いてみるが、ここはそもそも人族領ではないそうだ。では、魔族領?答えは否。
この遺跡は、この大陸は、人々にとって絶対不可侵の未知の世界なのらしい。
いやはや、ふざけている。ここはいわば序盤の街だ。確かにレインベアードがいるのはおかしいが、それでもクッッッソ弱かったのだ。ここまで生物が弱いとなると、ゲームの世界でもとてつもない強さであろう俺のステータスは些か不安になる。しかし、それについてはもう今更どうする事もできない。一体何が関わっているのか分からない以上、しれっと過ごして隠し通すしかないだろう。
そういえば、俺がいない間どうしていたのか(ゲームでは俺が魔族でない間、つまり他種族に転生した時、配下のデータ自体は存在するものの呼び出したりできないため)気になって聞いてみたところ、
「不覚にも眠らされており、目を覚ました時には天災がちょうど終わったころでした。そこで、カイト様が戻ってきた時に困らないよう、情報収集を行っていました」
と言うのが、フィス。設定上の話が通用していたみたいで、その設定のおかげで天災に巻き込まれなかったのだろうか。で、本人たちには眠っていたことになっていると。
「じゃあ、他の3人はそれで起きた後、何をしてたんだ?」
「また、ねてたー」
と言うのが、テス。かわいい。
「ぐっすり寝たので今の気分は最高です!」
と言うのが、モナ。かわいい…?
「カイト様をお慕いする夢を眺めておりましたわ!」
と言うのが、エル。誤魔化そうとするな、寝てたんだろ。
───つまり4人中3人が寝てたと……大丈夫か?こいつら。
「はぁ……それじゃあ、行こうか」
そう言って俺は西に向かって歩みを進める。道のりは長いが、腹も減らずに疲れ知らずなわけだし、余裕で辿り着けるだろう。話し相手も増えたしな。
「歩いて行くのですか?我が君」
歩き出した俺に、不思議そうに声をかけるフィス。
「───なんで?」
「───いえ、その西の大国に行くには海を渡らなければならないのです。些か遠過ぎますな」
「なら、何がある?」
車なんてないし……乗れる魔物か?それが普通の移動手段ということなのか?そうなら尚更レインベアードを捕まえておけば…
「とびたい!」
テスが翼を出して飛んだ。あ、なるほどそうか。
「飛んで行こう」
「分かりました!」
地面にクレーターを作るように力強く宙に飛び出で、空気抵抗を最小限にし超高速で舞い上がるモナ。その速さは一瞬でトップスピードまで辿り着き、そのまま…
───そのまま、墜落した。
「…だ、大丈夫か?」
「無傷です!」
地面に埋まった頭をズボッと出して笑顔で叫ぶ。
「そ、そうか…」
気にしない方がいいのだろうか。
しかし、俺は元人間なんだから、飛んで行くなんて普通思いつかなくて当然だよな。そうだよな。
俺はモナのおかげで霧散した微妙な空気を一人で抱え、恥ずかしくない当然だと自分に言い聞かせながら、俺とテス、エルは黒い蝙蝠のような翼、【上魔翼】を広げ、フィスとモナはスキル【飛翔】で飛び立つ。
パンッ!!!!
「うぉ!?」
なんだ今の音!?まさか音速を超えたのか?後ろを見ると空気が歪んでいるみたいだ。これがソニックブームだろうか。
目まぐるしく景色が変わる。その速度でも風が気持ちいいと思える俺は相当やばいステータスなんだと実感した。
というか、歩かなくて正解だったな。どれだけ時間がかかった事やら。
飛ぶこと数分。あっという間に人間の街らしきところを見つけた。
思いの外空の旅が気持ち良く、はしゃぎまくって加速し、フィスたちを置いていってしまったのは黒歴史確定だ。墓まで持っていってやる!
街から数百mほど離れた場所に着地する。流石に街中でこの翼は目立つからな。
翼をしまい、【偽造LvMax】と【魔術LvMax】を併用、さらに《幻覚魔術》を発動、俺とテスの耳を丸く、エルの角を隠す。そしてこれまた【偽造LvMax】と【隠蔽LvMax】でステータスを偽造し準備完了。
街道を道なりに進むと、何事もなく街に到着した。さっき上から見たが、この街はそんなに大きくなかった。辺境の街なのだろう。
門の前には衛兵が二人立っている。
「止まれ。身分証はあるか?」
衛兵の1人に声をかけられた。案外若い。見たところ優男だな。
俺の勘は大体当たらないが。かと言って絶対当たらないわけじゃないからタチが悪い。
「ああーーーーすまない、ないんだ」
危なかった!!癖で数千年前の冒険者証を出すところだった!
「カイト様、僭越ながら私めが持っております」
「あ、そうなのか?なら頼む」
フィスは情報収集で身分証も作ったのか。その辺は緩いのか?日本なら考えられないな。
「あ、フィス殿じゃないですか!お久しぶりです!」
「君は確か…」
「ルークですよルーク!ダンジョンで一度助けてもらった!あの時は本当にありがとうございました!」
「なんだルーク。知り合いなのか?」
「ああ、ケイリス。俺の命の恩人だよ。フィス殿、そしてお連れの皆様、ようこそクラインへ!!」
クラインというのがこの街の名前か……
フィスの顔パスで門をくぐると、とても活気のある街で、住民達が笑顔で道を行き交っていた。
「というか、フィス。お前は情報収集をしてたんだよな?」
「すみません。人族を救ったのは不味かったでしょうか。どうぞ罰をお与え下さい」
え?そこ?
「いや、そうじゃなくてだな……何主人公みたいなことしてるの?」
「───主人公…ですか?」
「あーいや間違えた。この街のことを教えて欲しいんだよ」
異世界転移した魔王の配下が主人公とかどんだけ濃いストーリーだよ…俺確実に殺される側じゃん…
詳しく話を聞くと、フィスはここを含めた3つの都市を拠点に、基本的な情報を集めたそうだ。
この街──クラインだけでなく、仕事を装うために冒険者をやっていたらしく、案外有名なんだとか。
まあ、有名と言っても、強さではなく、やりたがらない雑用をこなし、人の命を助けることもある優しい御仁としてだが。彼の力を振るえば余裕で無双できるだろうしな。
今のAランク冒険者のステータスはゲーム時代のCランク冒険者だそうだ。やべえよそれは…
それ以外にも情報はあるらしいが、一気に聞くと俺の方が分からなくなりそうだったので、随時聞くことにした。
「フィス、この街ではお前の顔パスがあったが、他ではそうもいかないだろう。冒険者証を作りたい。案内してくれ」
「承知致しました。彼女達は如何致しましょう?」
と、フィスはエル、モナ、テスに顔を向ける。
「エルとモナは作るが……テスは作れるのか?」
「カイト様とおそろいがいい!!」
自分だけ仲間外れにされたと思ったのか、駄々を捏ねるテス。
「こら、テス。我儘は言うものじゃありませんわ」
おいこらエル。ドヤ顔で言うな。説得力が皆無だ。
「旅人が子供を街に入れるために身分証として冒険者証を作ることもあると聞きましたので、可能だと思われますよ」
「そうか。なら大丈夫そうだな」
「やったぁ!!」
おいこらエル。テスを睨むな。
冒険者ギルドは案外大きな建物だった。東京ドームよりは小さいだろうが、それでも大きい。修練場もあるからだろうか。
WoR時代は場所を取らないよう、地下に修練場があった。湿度や温度なんてほとんど関係なかったからな。
中に入ると右手にカウンターがあり、左手は酒場になっていた。よく見るやつじゃん。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用ーーーフィスさんじゃないですか!お久しぶりです!」
受付に行くと受付嬢に話しかけられた。フィスが。こいつどんだけ有名なんだよ。てか執事服なのに違和感を持たれてないのな…
「お久しぶりですな。メイリさん」
「本日はどのようなご用件で?」
「この方々の冒険者登録をしたいのです」
「はい、4名さまですね。書ける事だけでいいのでお願いします。代筆は必要ですか?」
「大丈夫だ。字は書ける」
日本語だしな。まあ、時間が経って変わっているところもあるかもしれないが、ある程度は伝わるだろう。
「かしこまりました。こちらにお願いします」
「おいおい……ガキとじいさんに女と子供って…冒険者なめてんだろ。がはは」
「お!そこの女、良い顔してんな」
「ゲヘヘ……なあ、そんな頼りない奴ら置いて、俺たちと行かないか?」
俺が名前や特技(剣にしておいた)を書いていると、いかにも「チンピラ」をしている酒臭い男が3人エルに言い寄って来た。
生憎、先程のメイリという受付嬢は別のカウンターで他の冒険者の対応をしている。
異世界転移と言えば、このテンプレだよな。さて、どう、料理してやろうか?(1度は言ってみたかった)