第2話 ゲーム…なのか?
「終わったぁ!!」
伸びをしながら後ろに倒れる。隣に居る魅李も俺の真似をする。現在、魔剣伝説2を終わらせた後、ゲーム内の2人プレイでしかできない小ネタをいくつか消化した所だ。
「あぁ…で、次はなにする?」
「…マリ○カート」
「お前それ好きだよなぁ……」
大体魅李が家に来たときは一度マリ○カートをしないと帰らない。俺はグ○ンツー○スモの方が好きだけどな…
「でも、WoR、は?」
「あ」
「…」
「…」
完全に忘れてた……やべっ、今何時だ?
「今は午前7時…あれから……14時間経ってる」
「ーー俺、声に出してたか?」
首を傾げる魅李。いや、可愛いんだがそうじゃない。てか、怖えーよ!
「あぁ…でもゴーグル付けたくねーなぁ……」
頭痛いし、脳からの信号の向きを体から電子空間に変えるわけで、外す時のことを思い出すととにかく気持ち悪い。
「大丈夫、なんとかなる」
「どっから来た自信だよ!」
「カイトが行ったら魅李も行く」
「────持ってきたのか?」
「ん」
リュックサックにぎゅうぎゅうに詰め込まれたコンピュータを見せてくる魅李。
「リュックパンパンに詰めてまで人ん家に持ってくるなと言いたいところだが、今回は好都合だからいいや。じゃあ、頼む」
と言いながら俺はベッドに転がる。
今はもちろん脳から体に信号がきている。つまりゴーグルをつけることはできるのだが、途中で脳からの信号がゴーグルに向かうわけで、何が起こるか分からない。何かあっても嫌なので、魅李に付けて貰うことにした。
「……付ける、よ?」
そう言いつつ、ゴーグルを持って俺の上にまたがる魅李。顔が近い。
「───馬乗りにならなくてもよくない?」
長い髪が俺の体に垂れてくる。光を遮られ、薄明かりに浮かぶは小さな整った顔。長く整えられたまつ毛、黒く輝く瞳、血色の良いピンクがかった唇、そこから漏れる小さな吐息。
「これ、大事」
「いや、さす───」
話の途中にゴーグルを付けられた事で、俺は最後まで喋ることが出来なかった。頭が痛てぇ…………が、があぁああああ!!!!?!???
途中までは脱ぐ時に経験した痛みと気分の悪さであっただけなのに、今度は尋常じゃない痛みに叩きつけられ、今までの感情を全て抹消される。身体中に高電圧のキスを受けたかのような。脳神経を全部まとめて引きちぎり続けられるかのような。そして、目の前全てを覆うスキルの取捨選択タグを見たあと、俺の意識は暗転した。
◇◆◇◆◇◆
目が覚めるとそこは転移門の前だった。
「転移門…そうか、放置して…気絶したのか?ゲーム内で?そういえば、取捨選択タグはどこにいった?」
頭が回らない。不快感が徐々に消えてくる頃、今度は多くの疑問で思考は霧に包まれていた。
あれだけ目の前を覆っていたタグが全て消えているのだ。スキルがどうなったのか気になり、ステータスを開く。
「ステータス」
Name(名前): 縺ソ縺九s@ 蟒莠コ
Race(種族):紅呪吸血鬼
State(状態):良
Title(称号):史上の到達点、転生者、限界を超えし者、異界の旅人、永劫の時を生きる者、始祖
Job(職業):未設定(潜在:魔王、暗殺者、)
Lv(レベル):error!
HP(体力):error!
MP(魔力):error!
AT(筋力):error!
DF(耐久):error!
SP(速度):error!
TE(技量):error!
Skill(能力):
種族能力
【不可視】自身を視覚認識不能状態にする。不動の場合、更に探知を完全無効化する。
【上魔翼】上位魔人以上の者のみが持つ魔法の翼。高速(1000+SP×TE×1/80)で飛行する。
【生命吸血】血を吸うことで吸ったHPまたはMPの1/2回復する。
【高速再生】HPを自動回復する。MP1消費毎にHP20回復。2秒経過でHP10回復。
固有能力
【影血の主】血と影を自由に支配する。MP消費なし。
【魔王之覇気】自身のレベル未満の者を恐縮状態にする。十分な差があれば、精神操作も可能。
専用能力
【スティールMastery】アイテムを奪うことが出来る。遠距離奪取が可能。自動奪取が可能。
【ソードアーツMastery】剣を使用する武技の全てを扱う事が出来る。
【シールドアーツMastery】盾を使用する武技の全てを扱う事が出来る。
【ランスアーツMastery】槍を使用する武技の全てを扱う事が出来る。
etc...
通常能力
【武術LvMax】全ての武器の力を引き出し、操ることができる。
【魔術LvMax】全ての属性の魔法を操ることができる。
【鑑定LvMax】全てを見ることができる。(同Lvの場合、隠蔽が優先される)
【隠蔽LvMax】全てを隠すことができる。
【偽造LvMax】全てを誤魔化すことができる。(同Lvの場合、鑑定が優先される)
etc...
「な……な……」
分かる。分かるよ。多分、限界まで取ってるから奪えないスキルポイントが大量の経験値に変わってるんだよね。
分かるけど、エラーって何だよ!?最大レベル999はどこに行った!?それになんだこの膨大なスキルの量は!?地面にステータスがめり込んでるぞ!先が読めねぇ!!てか、なんで職業でもない専用スキルマスタリーがポツポツあるんだ!!どんだけ経験値いるのかわかってんのか!?…俺の3時間かけて名付けた渾身の名前「みかん@廃人」も文字化けしてるし…っ待てよカースヴァンパイアってなんだ!?しかも俺の種族はシャドウの筈だ。確かにシャドウはヴァンパイアの眷属って設定だがいくらなんでもヴァンパイアの上位種に進化とかはありえないだろ!?しかもエンシャントって千年生きてるボス古竜専用の称号だぞ!!
「はぁ……はぁ……」
心の中で叫んでいると疲れてしまった。周りからすれば急に透明化して目ん玉飛び出てじたばたあばれだした奴が現れたわけだ。さぞかしドン引きしながら見ているんだろうなぁ…周りの目が怖え…
「周りの……目?」
そう言えば、いない。あの転移門に並ぶ大量のプレイヤーが。AIの衛兵すら存在しない。
おかしい。ありえない。異世界にでも転移したって言うのか?いや、そんなわけない。まだアップデートされたって方がしっくりくる。
アップデートで何か緊急クエストが出て、衛兵達が出て行ったみたいな設定かもしれないし、プレイヤーはその大型アップデートで全員どこかに行ったとか。あり得なくもない。だが、あれだけ人気のWoRにチュートリアル中のプレイヤーがいないとなると…腑に落ちないな……しかもそれなら俺はどれだけ気絶していたんだ?
「まあ、魅李に聞けばいいか」
そういえば、こっちに来ると言っていたが、いないな。何かあったのだろうか。
「メニュー」
目の前にメニューが現れる。ステータス、インベントリ、チャット、オプション、ログアウトの5つの選択項目があり、そこからチャットをタップするが……反応が、無い。ログアウトも何度か叩くが、まるで大人にしか見れない広告を閉じるバツ印のように点滅するだけだ。
「おいおいおい……どうなってんだよ……デスゲームってか?それともやっぱり異世界?いや、こんな冗談言ってる場合じゃない。一旦プレイヤーを探さないと」
そして俺は目の前にある王都に向かうことにし、歩みを進めた。───気が動転している俺は、このゲームの主軸でもある転移門がやけにボロボロで、ゲーム内の街道に雑草が生えているという異常事態にさえ気付かずに…
カイトは独り言が多いです。引きこもりだからでしょうか?
明日から一章が始まります。是非、読んで下さい。読んで下さった暁には、作者が飛び跳ねて喜びながらコケます。