第1話 チートと言っても過言では無い
説明が多いので読むのが少し大変かもしれません……ヒロイン1号さん出るのでそこまで頑張って!
また、何か不明な点があればご感想下さい。
「あれ?これいけんじゃね?」
そう考えた俺は、小型量子コンピュータの実力を信じてゲームを放置する事に決めた。
数年前に発売されたVRMMOゲーム“ WoR”。正式名を“World over Reality”。人気が廃ることを知らないこのゲームは、決して放置すればレベルが上がったりするようなものではない。
それを理解していて何故そんな事をするのかと問われると、答えは1つしかないだろう。
ーーー裏技見つけた。
職業【盗賊】の専用スキル「スティール」。これは戦闘可能区域のみで、触れたプレイヤーからアイテムをランダムで奪うスキルだ。そして、スキルを最大レベルのマスタリー2つ前まで引き上げると、「オートスティール」というスキルが開放される。効果範囲に入るだけで低ランクのアイテムをランダムで奪える、とても使い道のありそうな能力だ。まあ、大抵索敵スキルでバレて、ボコボコにされるのだが。
次に、摩訶不思議草。これは持っていると発動するスキルの能力が変化するという如何にも謎アイテムだ。この摩訶不思議草を持ったまま「スティール」を使うと、その人の持つスキル経験値を1奪うという、一見有用な効果が出る。しかし、スキルが使用可能なLv1にするのに必要な経験値が100なのだから、どちらにせよ格上にバレてPKされる事を考えるとほぼ無価値である。
ここで出てくるのがこのゲーム醍醐味の転生システム。簡単に言えば、人間スタートでLvをカンストさせれば、上位魔族に転生したりして、違った視点でゲームを楽しむことが出来るシステムの事だ。
転生の特典は2つ。スキルのみのレベルを1下げた状態で転生先に引き継ぐのと、アイテム全ての引き継ぎだ。案外太っ腹で有り難い。
ただ、Lvカンストという、このゲームでどんなに上手いゲーマーがどんなに効率的にやっても半年はかかる道のりの成果を一瞬で捨てることが出来た奴は多くない。旨味も少ないわけじゃないが、能力200%上昇の称号や、自身が作り上げた国を捨てるのはどうにも割に合わないからな。普通に学校や仕事の合間にすれば3、4年はかかってもおかしくない難易度なのだから。
しかし、俺は勢いで転生5回目を盗賊からシャドウという魔物に変えてしまった。転生2回分だから正直約1年半もドブに捨てた大バカ野郎だと思うし、ものすごい後悔があるが仕方ない。面白いことができそうだったから…つい…
転生先のシャドウという魔物、一言で言うと雑魚だ。唯一の長所として、生まれたときから使用できる種族スキル【インビジブル】がある。発動すると見えなくなり、動かなければ索敵スキルにも引っかからないというはたまた強そうなスキルなのだが、動かなければ、だ。
つまり、攻撃モーションに入ったり、近付いたりするとバレるのである。それでも一応目に見えないので奇襲にはなるのだが、如何せんステータスが低い。初期の頃や偵察としては使えても、あまり使う意味はないのである。
1つ追記しておくと、種族スキルはその種族でない限り使用不可なので転生すれば使えないのだが、職業専用スキルはその職業でないと入手出来ないだけで、転生後も使用可能だ。
まあ、スキルレベルを上げられないので、転生でレベルが下がってしまえばマスタリーには至れないのだが。
さて、これで分かった人もいるんじゃないだろうか。
そう!俺は、
盗賊に転生
→Lvカンスト&【スティール】Lv9以上
→シャドウに転生
→どこかに陣取って放置
→勝利♪
という完璧な戦法を思い付いたのだ!!
まあ、こんな簡単なの誰かやってそうだけどな。だが、まだ聞いたこともないし、なにせLvを要求値まで上げなければ獲得できないスキルもあるのでまたLvカンストさせなければならず、1年半もこの実験をするために費やしたのだ。もう後戻りはできない。
オートスティール時には取捨選択があるので、それが大量に溜まったときの本体の動作は不安だが、その辺はなんとかなると信じよう。
さて、準備は整った。これが成功すれば、WoRスレで報告だな。ーーー殆どが盗賊とシャドウになった世界、見てみたいし。まあ、そうなったらこの戦法は修正されるだろうから俺の一人勝ちだな。
そんな皮算用をしつつ、WoRで1番、人が集まるこの場所、王都前の転移門に来た。この王都はゲーム内で唯一AIのみで編成された国になる。いわば最初の街みたいな所だ。実際はスタート地点は種族ごとなので、人族以外にとってはメインストーリーやってると出てくるチュートリアル施設ってだけだが。
そしてこの転移門というのは多種多様な街にワープできる。行った街ならどこへでも行けるので、ここでは深夜ですらネズミーランドほどに人が混み合っている。まあ、下手したら数万人が同時ログインしてるサーバーだから、それも当然と言ったところか。このゲーム、第二の世界を謳い文句に、サーバーを分けていないのだ。そのせいで長期休みは大抵サーバー落ちてるけど。
転移門は門というより円形の広間で、そこに入って行きたい場所を唱えるとそこに転移できる。その白い大理石に幾何学模様を刻んだ巨大な円は嫌でも目を奪う。
それを見ながら、俺は友人に連絡を入れた。VRゴーグルは自分で外すことができないため、リアルで外してもらわなければならない。正規のログアウトをすれば、起き上がることが出来るが、それでは放置できないため意味がない。
視界がズレた。うわっ、これ凄い気持ち悪い…ログアウトしないでゴーグル取るのを会社側がさせてくれないわけだ。
ぼやけた世界にピントが合うと、いつもの見なれた天井が目に映る。9割型ゲームのために改造された白黒の部屋は少し無骨な印象で、到底お洒落とは言えない。
「頭痛てぇ……これの逆をもっかいやるのか……ありがとな魅李」
「ん」
隣に目を移すと、VRゴーグルを取ってくれた友人と目が合う。長い黒髪に大きな黒い目。全身ジャージの小柄な女の子だ。彼女の名前は浜松 魅李。無口で無表情だが、長い付き合いなので、最近は小さな表情の変化も読み取れるようになった。
「待ってる間何しようか」
「…」
魅李は無言で懐から四角形の薄い箱を取り出す。
「これは……限定版ファーストストーリー外伝、魔剣伝説2だと!?よく手に入れたな……」
「えっへん」
無い胸を張る魅李。ちなみに顔は無表情。
「ーーーーーなにか?」
「ーーいや、何でも」
分かった。変なこと考えた俺が悪かったから、悲しそうに自分の胸を見るのだけは止めてくれ…