第15話 計画
街と、森の間に広がる草原。いつもは、稀に低級で小型の魔物が徘徊しており、それを新人冒険者が練習として狩ったりしているだけだ。つまり、ほとんど危険のない、平和な場所なのだが……
現在、Cランク級。それは比較的柔らかい魔物にさえ鋳造の剣ではへし折られてしまうほどのランク。そんな魔物たちが数千と集まり、街に向かって走っていた。
彼等は驚いていた。否、これは恐怖なのだろう。だが、そのことを彼等は知らないし、知る知恵もない。それに、かけられた魔法の力により逃げることは出来なかった。そして、“それ”と戦う。
彼等は生まれながらにして強者である。恐怖など感じたことはほとんどない。稀に死にかけることはあるが、ほとんどは同等レベルの者との戦いである。だから恐怖とは無縁だった。
彼等は自分を強者だと思っていたが、今日、それを改めたであろう。何故なら、“それ”は一撃で自分と同等の者を殺していくからだ。
真の強者とは、このようなものなのか。自分達が驕っていた事を知り、その命は散る。
それを見ている人間たちもいた。冒険者や兵士が街を守りに門の前に集結したのだが、敵が多すぎるために尻込みしていた。そこに現れたのが“それ”である。
時には切り裂き、時には突き刺し、時には魔法も駆使して敵を殲滅する。その真の強者とは───
「なんであたしなのよぉおおおお!!!」
◆◇◆◇
俺が悩みながら、アイテムをいくつか出した頃に、ラミは部屋にやって来た。
「ご主人様、どうしたの?」
ラミは小首を傾げながらこちらにやってきた。エルは本当に何も伝えず、ラミを寄越したらしい。
「よしラミ、念願の装備をやろうじゃないか」
「お!やったね!まさかご主人様に呼ばれて朗報だなんて思ってもみなかったわ」
……朗報じゃないんだけどな。
俺が渡したのは魔法使い用ローブと胸当てや膝当てなどの急所を守る防具だ。
「あれ?ローブは分かるけどなんで鎧?」
「───魔術士は敵に近づかれた時、対処する方法がない。だから、そのための防具なんだ」
「ああ、そういうことね」
そして俺は剣を渡す。この剣は魔法媒体にもなるように調整された金持ちの魔術士御用達の自衛武器だ。
「なんで剣?媒体になってもしょうがなくない?それなら魔法効果の上昇が見込める杖とかの方が…」
「───今、お前に合う持ち合わせがないんだ」
「────そう、なんだ」
そして俺は手のひらサイズの玉を渡す。手榴弾のような見た目をした楕円の玉である。
「これは?」
「引き金引っ張ってみ?」
「こう?」
「それは『魔戦弾』って言って、それを使用した人はな?」
「うん?」
「近場にいる魔物の場所に転移して強制バトルになるんだ」
「え?嘘、いや、待っ──」
ラミが何かに吸い取られるように、かき消えた。
「行ったか…ふぅ。ラミ、幸運を祈る」
そして、冒頭へと戻って行く。
◆◇◆◇
「あぁもう!邪魔ね!穿て!【嵐強化岩弾】!!」
【岩弾】という石を飛ばす技を風に乗せて威力の強化し、さらに操作を可能にしたのが【嵐強化岩弾】だ。
地面に魔法陣が描かれ、岩の弾が飛んで行った。それは強化された岩の弾が壊れるまで、敵を貫き続ける。
先程から所謂“無双”をしているラミではあったが、彼女の実力はB+程度、そんな彼女が何故Cランクの魔物を倒し続けていられるのかと言えば、装備のおかげであろう。
賢者のローブ+20
古代の賢者が着ていたと言われる秘宝。
【魔法強化・大】【魔法耐性・大】
魔戦鎧
狂気的な魔導師が、近距離戦をしてみたくて作ったと言われている鎧。近距離からの魔法は敵への効果覿面だったが、呪いをかけられ鎧の中で死んだという。
【MADの呪い】強化不能。戦いに巻き込まれやすくなる。運が悪くなった気がする。
【攻撃強化】【防御強化・中】【破壊耐性】
偽剣 エクスカリバー+20
とある神剣を象ったコピー。オリジナルより急激に能力が低下しているが、魔法媒体として扱うことができる。
【全補正強化】【魔力増幅】
【軌道修正】攻撃を補正し、敵にダメージを与えやすくする。
あまり強く見えないが、このレベル帯の武器でも、この世界にはそうそう存在しない。国庫などにならあるかもしれないが。
Aランクの上、すなわち“枠外”のSランクでも持っている者のは少ないのではなかろうか。それほどの業物なのである。
カイトはラミが死なないくらいになって、壊れてもいい武器という、適当な理由で選んだのだが。
「後で覚えといてよぉお!ご主人様ぁあああ!!」
ラミは今後とも苦労しそうである。
◆◇◆◇
「ここ、ですかな」
街はずれにある小さな建物。その中には男が1人、ダラダラと時間を潰していた。
(あの変な女はフィス様なら絶対に来るとか言ってたけどよぉ。来るわけねえって。街全体の魔力の痕跡を調べれる化け物なんて存在してたまるか)
そう思っていた矢先、ドアが叩かれる音が聞こえた。
「ああ?なんだよ爺さ…っ!!…ん。お、俺の家に何かかようかよぉ!?」
目の前には執事の格好をした初老の男性がいた。
(まじで来やがったのかよ!?)
ちょっと威圧感を出そうとしているが、内心汗ダラダラである。というか、言葉使いもなんだかおかしい。
フィスはフィスであの時、相手が主に手を出そうとした輩というのを思い出していた。
あの時はカイトが制裁を下したが、意外にも1番怒って、消し炭にしてくれてやろうかと思っていたのはフィスであった。カイトが魔法を使わなければ、この男たちの体は跡形もなく、いや、魂ごと消されていたであろう。
「ほう?貴方がたでしたか。魔物たちを呼び出したのは」
「な、何を言って……俺たちはただここに住んでるだけだぜ?」
「嘘を仰らないで下さい。魔力反応はここにしっかりと残っています」
「と言われても俺は何も持ってないぜ?なんなら家の中でも見てみるか?」
男は女が考えた作戦と同じように事が動いていることを思い出した。それならばそのように動けばいいのだと、半ば開き直ったように余裕を取り戻した。
「では、他の同居人はどうされましたかな?」
「あ?俺はここに1人で住んでるんだが?」
「先程、俺たちと仰っていたではありませんか」
「っ!!??」
取り戻した余裕も、自分のミスにより、直ぐに無くなってしまった。
慌てるが、慌てれば慌てるほどフィスに確信を持たせてしまった。
「成る程、貴方のお友達は逃走中ですか。まあいいでしょう。彼らの魔力反応は覚えています。今から向えば…」
その言葉に男はゾッとした。
(魔力反応を覚えているだぁ!?ふざけんじゃねぇ!!どんだけバケモンなんだよ!)
そして、その言葉を呟くフィスは目の前で使われても気付きにくい魔法の痕跡に、遠距離から気付いたことを思い出し本当に出来るのではないかと思い始めた。
そして─────
そして───
これも計画の内であることを思い出した。




