第11話 反発と誤解
奴隷たちの居る部屋を出た俺は、金を払った後、廊下で待たされていた。やっぱ侮られてるよな?
さっきの獣人の奴隷──ラミは、俺に買われた瞬間、まだマシとでも思ってるような顔でこっちを見ていた。ブルータス、お前もか。
そして、彼女が異世界人、つまり地球人と考えた場合、千年以上たった今は俺の知っている世界ではないかもしれない。まあ、ラノベみたいな感じで、時間軸が違って100年くらいしか進んでいないかもしれない。俺にも、御都合主義が通用すればいいのにな…
ちなみにこれは故意にフラグを建てたのである。
ごほん。それに、ラミのステータスには日本人と明記されているわけではなかった。外国人かもしれないし、それどころか、違う世界の人間かもしれない。
日本語は、転生してから今まで聞いてきているから話せるだろうしな。
ゲームに干渉して、現実として扱えるほどの者がいるのだ。他に世界がないとは言い切れないだろう。
まあ、日本人だから日本への送還方法を知っているというわけではないだろうし、日本人だった場合もそうでない場合も、俺の感情の問題である。結局、差は無いのだ。
「お待たせいたしました。こちらが商品の奴隷でございます」
そうして、商人がラミにある程度マシな服を着せ、歩かせてきた。すごいフラフラしてる。
首には隷属の首輪が嵌めてあり、登録者への暴力暴言など、抵抗が不可能になっているそうだ。
「ああ。ありがとう」
「貴方の血で主人登録を済ませてください。その後はお好きなように」
俺は親指から血を垂らし、首輪に一滴落とす。親指に開いた傷は一瞬にして塞がった。うん。化け物。ちなみに痛みも皆無だった。化け物である。
商人は言うだけ言って、直ぐに去っていった。俺より大事な顧客でもいるのだろう。
ラミは反抗的な目で見るのでもなく、諦めたようにこちらを眺めてから、口を開いた。
「───私はラミと申します。よろしくお願いします、ご主人様」
「ああ。よろしく。じゃあ、さっそく命令を与えようと思う」
「か、畏まりました」
少しビクッとしてから、何も口答えせずにこちらを伺うラミ。俺が本当に性奴隷にするとでも思っているのだろうか。俺の見た目そんな怖い?キャラメイク頑張ったんだけどな…
俺はインベントリからポーション取り出し、渡す。
「これ飲め」
「──?これは?」
「状態異常ポーションだ。風邪なら直ぐ治るだろ」
「え!?そんな高価なもの…」
「命令だ」
「な、なら…」
そう言って彼女は、ビンに口をつける。すると、薄く体が光り、ステータスから風邪と鬱が消えた。便利だなあ。
「なら、2つ目の命令だ。敬語禁止な?」
「───はい?」
「3に、人生楽しめ。諦めんな」
「え?いや、ちょっ──」
「4に、帰ったら生姜焼き作ってくれ」
「あ、それなら───え?」
呆けた顔で俺の顔を眺めるラミ。何か付いてるか?
「ああ、でも生姜ないから駄目か。残念だな」
「ええと…生姜焼きってこっちの世界にもあったりしま、じゃなくって、あるの…?」
「多分、ない」
「てことは…」
「そ。お前と同じ元日本人」
そう言った瞬間、ラミは目をウルウルさせ、大粒の涙を零し始めた。
「う、うう…うぁ」
「え、おい、どうした?」
俺は幼女がいきなり泣き出したので、慌てふためいて思わず彼女を抱き留めた。
いつまでこうしていただろうか。やがて、涙が止まり、泣き腫らした顔でこちらを見上げるラミの目には、しっかりとした生気が感じられた。
「───あたし、どこにでもいるような平社員だったんだ。でも、交通事故で死んだみたいでさ」
彼女の話を纏めると、目を開ければ見知らぬ天井と見知らぬ男女だったらしい。そして、体は思うように動かず、声も出なかった。だが、お詫び程度に泣き声だけは出せたそうだ。まるで産まれたての赤子のように。
そうして彼女は転生したのだ。
その後、獣人族の街の子どもとして生きていたが街が人族に襲われ、ほとんどの街の者が亡くなった。そして、生き残った一部の女子供も奴隷として売り飛ばされた。
そこから1年、誰にも買われず街を転々として、俺に買われたそうだ。
話を聞いた後、俺は創造神について聞いてみた。
「創造神?いや、転生した時、神様らしき人にはあってないんだよね。チートもなかったし、クソゲーかと思ったけど第2の人生だって考えれば苦にならな──」
「は?お前はどう考えてもチート持ちだろう」
俺みたいな化け物じゃないけど。
「へ?」
なんと、【創造神の加護】による隠蔽は、本人にも見れないようなのだ。
なので魔力のことを教えてやると、彼女の目は爛々と輝きだした。
「───第2の人生とかなんとか言ってなかったか?」
「それはそれ!これはこれ!だってチートだよ!?ラノベだよ!?俺Tueee!異世界サイコー!」
滅茶苦茶テンションが高い。こいつ本当に俺より年上か?ま、これまで辛い思いしてきたなら、元気になれるのはいい事だろう。
俺は忘れていた。フィスとモナは精霊だ。人間に偏見などない。そしてテスの精神年齢は幼女である。もちろん偏見はない。
だから、忘れていたのだ。この街に来るのすら、猛反対されたことを。この店に入らせるのも止めさせて、店の前に置いてきたことを。
「───殺すわよ?」
「え!?いや、ちょっと怖いんだけど、カイト!」
ラミが俺の後ろに隠れる。
「カイト様を呼び捨てで呼ぶなど…」
整った美しい顔に、見事な青筋が立っている。
そう。エルである。
エルは何故か人間が嫌いだ。それでも奴隷なら、利用するという考えで我慢出来たそうだが、こんなに馴れ馴れしく、しかもタメ口だと!?とブチギレていらっしゃいます。
「いい加減にしろ、エル。ラミは俺の同郷なんだ。それにタメ口なのは俺の命令だしな。それに反抗するっていうのは俺に反抗すると同義だぞ?」
「───申し訳御座いません」
とても不本意そうに頭を下げるエル。俺はその頭を撫でて、
「ま、その思いも俺への忠誠心からなんだろ。ありがとな」
コミュ障という訳ではないが、こういう時の慰め方を俺は知らない。だから、せめて感謝だけでも伝えることにした。
エルは頬を真っ赤に染める代わりに、機嫌を直したようだった。
「あんた女たらしなのね?」
「うるせーよ」
ラミが変な誤解を持ってしまったようだが。




