第10話 奴隷の少女
「魔王、か?」
「はい。人族はまだ気付いていないようで判断が遅れましたが、本日、妖精が警報を発しましたので、存在は確実かと」
妖精とは精霊にまで至らなかった者たちのことだ。いわば、精霊の部下のようなもので、人間によく悪戯をする面倒臭い奴らでもある。
その妖精が警報を発したというのは、精霊たちが見極め発信したということでもあるので、魔王は確実にいるのだろう。自称でも誇張でもない、魔王が。
「そうか。それで?それだけじゃないんだろ?」
「ええ、その不届き者の情報を集めようにも、妖精では魔国に近付けないのです。なので、私に偵察許可を頂ければと」
「分かった。許可しよう」
その魔王と敵対する可能性もなくはないしな。情報はあっても困らない。
「有難うございます。それに伴ってなのですが、貴方様の護衛と私の部下を頂きたいのです」
「お前の部下はいいが、俺の護衛なんて、いるか?」
「私の【探索】の届かないところにおられるというのは少々、心臓に悪いのです。どうかお許しを」
なら、それは別にいいか……としても、
「それはいいとしても部下なんて何処で手に入れるつもりだ?」
「そうですね。一応情報収集の最中に出会った魔族はいますが、明らかに遠いので、護衛にはなれないでしょう。それに、貴方様は人族の街を廻りたいご様子。ならば、亜人種の奴隷を買い、私が育てた者を使われるのがいいかと」
「なるほど」
奴隷か。ラノベで読んだ奴隷ハーレムみたいな話を思い出すな。まあ、性欲がないんだけど。
案外、奴隷に対しても嫌悪感はなかった。魔族になったからか、【精神耐性】のせいかは分からないが。
「魔王専用スキルの【兵士召喚:不死者】を使われてもいいですが、人族の街へ行くための護衛には向いていないでしょうし」
「兵士召喚?」
そんなスキル……あったわ。俺ヴァンパイアだった。
「はい。例えばスケルトンやゾンビなど、下位の不死系の魔物召喚を行うスキルです。ですが、今の貴方様なら不死王や食人鬼、死骨魔竜なども召喚出来るでしょう」
スケルトンやゾンビは王道の雑魚…ではなくゾンビは地味に強い。全然死なないからな。ホラーゲームとは違って頭をとっても動く。
不死王とかに至っては魔法無効だし。スケルトン召喚しまくるし。
しかも【兵士召喚:不死者】は生贄(スケルトンなら何かの死体、リッチなら人型の死体)を使用することで本人が持っている通常スキルのレベル半分を与えたりすることなどが出来るのだ。
例えば【剣術Lv8】を持っていれば、【剣術Lv4】を与えられる。本人はLv8のままで。
それに生贄を使わなくても、自身のレベルを上げるに至らなかった余りの経験値を与えて、レベルアップさせてから作成したりもできる。
「───俺に勝てる奴は存在するんだろうか」
「それはいないでしょう。今も、これからも」
そう言われるとそんな気がしてきた。死ぬことがないから嬉しいのか虚しいのか。
だが、やはりこの世界ーーWoRに干渉した者がどれほどの能力者なのか分かるまでは安心しちゃいけないな。
「分かった。明日、奴隷商に行こう。その後、お前の部下作成だな」
「有難き幸せ」
───あれ?礼をしたまま動かない…帰っていいんだぞ?ああ、こういう時は……
「下がっていいぞ」
「畏まりました」
こうか。
フィスはもう一度一礼して出て行った。俺も魔法を解除して、ベッドに倒れこんだ。
◆◇◆◇
翌日、俺とフィス、エルで奴隷商に向かうことにした。
モナはテスの付き添いで居残り…ではなく、テスがモナの見張りで家にいる。
奴隷商は街の大通りに堂々と店を構えていた。犯罪奴隷や亜人奴隷の売買は合法だし、借金返却のための奴隷も性的虐待の禁止や故意に怪我を負わせないなどの条件の範囲内でなら国も認めている。これは奴隷というより派遣社員のような感じだな。
犯罪奴隷や亜人奴隷を買うと、主人との間に契約魔法で絶対服従の魔法をかけられる。じゃないといつ反旗を翻されるか分からないかららしい。こっわ。
犯罪奴隷は勿論、亜人も危険である。いや、本来そうではないのだろうが、人族が勝手に捕まえてきたのだ。憎んでいてもしょうがない。それになんの訓練もしていなければ、亜人の方が脅威である。
人族をオールマイティ、悪く言えば器用貧乏とするなら、亜人は特化型になる。
例えばエルフは魔法の扱いに長けていて、MPやTEが高いし、ドワーフは鍛治などの創造系が得意なのは勿論、DFが高い。獣人は魔力がほとんどないが、他のステータスが高いため身体能力では最強だろう。
まあ、これはあくまでも目安で、個人によってステータスも大幅に変わる。だから、ゲーム時代なんかはリセマラ(リセットマラソンの略。ゲームのガシャなどを繰り返して欲しいキャラが手に入るまで続けること)をする輩だっていた。
それも転生すればチャラになってしまうのだ。よほどの向上思考持ちか馬鹿じゃないと転生しないのは当然だろう。
閑話休題。
奴隷商に入ると恰幅な男性が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。今日はどのような奴隷をお探しで?」
今日はどのようなご用件で?みたいな感じに奴隷を聞かれた…すごいシュールだ。
「亜人奴隷を全て見せてくれ」
「畏まりました。───檻に向かいます。付いて来てください」
俺の姿を一瞥した後、振り向いて歩き始めた。完全に平民だと侮られてるな。
ちなみにフィスとエルは店の前で待機だ。理由は自身の目で、しっかり選びたかったからであるというのが建前。フィスはまだしもエルが人族を毛嫌いしているからな。亜人奴隷の檻に行くなど何を仕出かすか分からない。
廊下を歩いていると、左の部屋から話し声が聞こえてきた。客室なのだろう。
うん。俺は檻にそのまま行かされます。交渉する価値もないとでも?まあ、無視しないだけ好感は持てるが。
「こちらです。どうぞ」
いつの間にか着いていたようで、扉を開けられる。うん。思ってたのと同じ。
大体が獣人であり、男女半々くらいだ。立っている者が皆無で、皆諦めた表情をしている。
ゴミや汚物の跡がそこかしこにあり、衛生面も酷いだろう。一応汚物などの掃除をしているようなのだが、集めて捨てたみたいな感じなので、跡が残ってて臭い。
俺は別に聖人君子ではないし、こいつら全員を助けようとは思わない。だから、ステータスを見て、強くなる可能性を持った奴を探していく。
『【鑑定LvMax】を起動します』
「───っ!?あの犬の獣人を買いたい。いくらだ?」
「あの犬の獣人ですか?ステータスは低いので労働には向いていませんが…ああ、性奴隷ですね。畏まりました」
いや、勝手に納得されても困るのだが……
護衛に育てると言っても、言い訳をしているととられそうなので諦めた。値段は銀貨15枚。金貨1枚と銀貨5枚を支払った。
栗色の髪に黄色の瞳。見たところ6歳くらいだろうか。俺が何故この幼女にしたのか。それはステータスを見れば分かるだろう。決して幼女趣味などではない。決して。
Name:ラミ
Race:犬人族
State:風邪(重度)・鬱(軽度)
Title:《転生者》《異界の魂》
Job:未設定
Lv2
HP:9/18
MP:2/2[4300/4300]
AT:7
DF:3
SP:8
TE:2
Skill:
種族【幻獣の守】武術系使用時のTE25%上昇。スキル【身体強化】強化。
通常【家事Lv2】料理や掃除などの複合スキル
【料理Lv6】【身体強化Lv1】
[【創造神の加護・魔力】加護を与え、加護自身をLv5以下の鑑定から隠蔽する]
【家事】に料理は含まれているが、【料理】のレベルの方が高いので、2つに分かれているようだ。
いや、そこじゃない。見て欲しいのは本来、獣人は数値がとても低い魔力。それが地味に4300もある。それもLv2で。
他に気になるのは【創造神の加護】と称号の《転生者》《異界の魂》だ。こんなスキル、ゲームでは存在しなかった。
だが、1つだけ、心当たりがある。
そう。彼女はほぼ間違いなく、この世界で転生を果たした、俺の同郷なのだろう。




