第三十三章 なんとなく、アミューズメント
俺はあの後、絶叫マシーンに乗り死にかけになった。
白崎に連れられて入ったそこには、金を入れて直接遊ぶタイプのマシンがあった。
ゲームセンターなどには特別顔を出していなかったから、確かに知っているはずのものでも、
どこか生まれて見るかのような新鮮さがあった。
俺よりももっと、こういった場所にエンのない白崎は、物珍しそうに辺りを見回しいたる。
「......初めて、ではないわよね?」
「ええ、紗弥とも来たことある」
「紗弥とね......ちなみに、その時は何をやったの?」
「白崎がやりそうなレバーをこう......がちゃがちゃと動かすものは、しなかったな。
シールを撮ったり、人形を取ったり......色々とやりました」
「ふーん」
「それで、白崎には何かしたいものがあったりするのか?」
「私であなたを連れてきておいて何ですけど、特になにも。ただ......今日のテーマ通り、
あくまでそれっぽいことをしてみたいので、あれなんかどうでしょう?」
白崎が何処となく楽しげに示す先には、微妙に型の遅れた大型のマシン......パンチングマシーンがあった。
人の顔を画像を取り込んでぶん殴るとか、そういった物騒なものではなく普通に殴るだけの物のようで、
傍らには色褪せた赤色のグローブが頼りなさげにぶら下がっている。
察するに、あまり人気があるようには思えない。
「ちなみに白崎のプロットは?」
「まず、男性がこれに挑戦して、女性に男らしさを示します。その後に女性も、やってみたいとか言い出して、挑戦。手が痛い......というのが、私の構想よ」
「お約束と言えば、お約束な展開だね」
しかし、クレーンで人形を取ってあげたり、音ゲーで決めて見せるよりは、遥かに男気を見せることができることだろう......が、それと同時に俺はその計画の致命的な欠点にも気付いてしまった。
「はい、これ」
グローブを差し出してくる、白崎。硬貨は既に投入されているらしく、BGMが流れ始めている。
がらがらと迫り出してくるサンドバックを見ながら、俺はぼーっと思考を巡らせる。
勇気を見せると言うが、別に俺はその行為自体に自信がないわけじゃない。
そこらの青年よりはよほど場慣れしているつもりだし、単純な腕力だってある。
だが、それでも。人間がいくら努力を重ねたとしても、越えることのできない壁というものは確かに存在するのだ。
白崎自身はあまり意識していないようだが、彼女はああ見えてかなりの腕力があり、加えてセンスもある。
殴り合いの勝負をしたとしたら素人である白崎に負けるつもりはないが、単純な力比べともなれば話は別だ。
サンドバック目掛けて拳を繰り出す。
ただ、それだけの勝負であれば、俺はイカサマをしない限り、『絶対』に白崎には敵わない。
残念ながら、誤魔化すことは不可能だ。
数値という目に見える形で結果が現れる以上、白崎が加減でもしない限り、結果が変わることがない。
反対にこちらが加減をしたら、何の意味もない。
誠意のない俺に白崎が機嫌を少しそこねるだけで終わってしまう。
どうあったところで、数分後の結果は変わることがない。
その時、拗ねた白崎を慰める自分を幻想する。
(それも......悪くはないかな?)
緩みそうになる顔を精神力で引き締め、俺は渾身の力を込めた拳を、サンドバックに叩き込んだ。
はいどうも、漆黒の帝王です。
今回も読んでいただきありがとうございます!