第三十二章 ジェットコースター
今の白崎はとても綺麗だと思う。
そんな白崎の他人に見せられないような一面だって、俺は見たことがあるし、
笑った顔も怒った顔も、そこそこ白崎の全部の表情を見てきたと言ってもいい。
はっきり言って、俺は世界で一番白崎の詳しい人間だと思う。
仲のいい女の子よりも、彼女の両親にも負けてないという自信だってある。それでも......。
「一時間待ちだそうよ」
心なしかうきうきしている様子の白崎を、横目で見る。
頭上からは悲鳴。
甲高い女のものがほとんどだが、中には野太い男のものも混ざっている。
少女のようにきゃーきゃー騒ぐ白崎......想像するだに、新鮮だと思う。
「別に、それくらいだったらいいんじゃないの?」
むしろ、白崎のああいう姿を見るための対価としては安いくらいだ。
今の俺なら、二時間でも三時間でも待つだけの気概がある。
もう、白崎研究家の血が騒いでしょうがない。
「あなたも、楽しそうね」
「そうかな?うーん......俺って実は、こういうのが好きなのかもしれない」
「そうなの?初耳ですけど」
「いや、俺も今気付いたところだから」
一人で遊園地に来て一人で絶叫マシーンに乗るのは、それが例え類稀な美少女であったとしても、
悲しいことだ。
男ならなおさらである。
「でも、あなたが絶叫マシーンが好きでよかったわ。このコースター、色々な面で世界最高のでできらしくって」
できれば乗りたくないが、目の前にはそれはもう、楽しそうな白崎。
これをどうして裏切ることができるだろうか。
「楽しみだね」
邪気のない白崎の笑顔を見ながら、俺は心の中で神に祈った。
はいどうも、漆黒の帝王です。
今回も読んでいただきありがとうございます!