シャルロット=フィル=ガルーダ
様々なことが分かる回です。ガルーダ王国の王族(王子以外)が好きになるかもしれないお話。
「そういえばガルーダ王国の第二王女の話はよく耳に入ってくるな。なんでもかなりの武人だとか。貴様はきっと妹に守られてきたのだろうな、情けない」
獣人国バルディリア第一王女であるハンナさんから言われた言葉が私の胸に深く突き刺さった。
思い出されるのは幼い頃の私のこと。
私は神童と呼ばれるほど武の才能がありました。いずれは国の頂点に立つ存在であると持て囃されていましたが、そんなことは関係無しに自分の才を活かすために努力を続けました。
そのまま私は実力を伸ばし、十歳にして騎士団長に勝てるほどになっていました。お父様はそんな私を誇りに思うと言ってよく褒めてくれました。アリスも私に憧れを抱いていたらしく、よく私の後を付いてきていました。
そんなある日の事、お父様の誕生日ということでパーティーが開かれました。毎年盛大に開かれるパーティーです。
私はお父様に付き添い、挨拶にくる貴族の方々の対応をしていました。子息を薦めてくる者、私を近くで見ようとする者、握手を求めてくる者などそれぞれに丁寧に対応をし、しばらくの自由時間を持ってパーティーは終わりとなります。これはいつも通りの流れです。
今思えばこの時に何かされたのでしょう。
翌日、私は慣例となりつつある騎士団の訓練に混ぜてもらっていました。
そして騎士団長との模擬戦、ここで問題が発覚しました。
私の身体が、思う通りに動かない。魔法も使えない。まるで自分の身体ではないかのようだった。
私はすぐにお父様にこの事を報告し、検査をしてもらうことにしました。
その結果分かったこと、それは
私には呪いが掛けられているということでした。
簡単に表すとするなら、力を封じる呪いでした。
呪い、要するに呪術を扱えるのは魔族と一部の呪術師のみ。魔族は大戦によって滅びていましたし、呪術師も国の働きでいなくなったはずです。
様々な方法で解呪を試みましたが、無理だという結果が出ました。
お父様はお前は悪くないと私の頭を撫でてくれました。アリスは私のために悲しんでくれました。さらにアリスは「私がお姉様を守る!」と言い出し、剣を握りました。
それからは呪いによって傷心した私につけいるように多くの貴族が私に声を掛けてきましたがアリスが守ってくれました。
だからこそ、そんな私が惨めに思えて仕方が無かった。
またお父様に褒められたい、アリスの憧れでいてあげたい。
そんな私が選んだ道とは、第一王女としてこの国に貢献することでした。
王位継承権は弟のエリクの方が上なので、私が出来ることは何なのかと考え、思いついたのが国の有力貴族に嫁ぐことでした。
私はすぐさまお父様にその事を報告しました。しかし、お父様は首を縦には振りませんでした。
なぜならお父様は私とアリスには政略結婚などではなく、本当に心の底から添い遂げたいと思える相手とくっついて欲しいと思っているからです。
なぜお父様がそう思っているのか。
それはお母様がエリクを産んだ後、病気によって亡くなってしまったから。
お母様一筋だったお父様は新たな妻を持つことはありませんでした。
お母様の形見である私達には幸せになって欲しい、それがお父様と今は亡きお母様の願い。
そのことを聞いて、それ以上私は我が儘を言わなくなりました。
私に他に出来ることは無いのか。
必死に考えましたが何も思いつくことなく、学園へと入学する歳になりました。
学園では少しでも立派な第一王女であることを心掛け、一学年にして生徒会長にもなりました。
しかし他に出来ることは無く、二学年になりました。アリスが新入生として入学すると、あっという間に頭角を現しました。
アリスは剣を握ったあの日から、私を守りたいという一心で強さを求めました。
アリスはかなりの才能があったらしく、更にそこに努力が重なったことで学園最強と言われるほどの実力を持っていました。
そんな妹を誇らしく思うと同時に、申し訳ないという気持ちで胸が押し潰されそうになりました。
姉として、愛する妹に女の子としての幸せを掴んでほしいと思ったからです。
昔、お父様と視察に行った村で出会った少年に恋をしたというのをアリスから聞いたことはありますが、それは既に叶わない恋でした。なぜならその少年はこの世にはもういないから。
泣きながらもそれを私に話したアリスが更に鍛錬に励み始めたのは、見ているこちらとしては辛いものがありました。
もうこんな私は放って、自分の幸せを追い求めて。私はついにアリスにそんな事を言ってしまいました。それは今までのアリスの努力を否定してしまうかのような言葉で。
しかしそれを聞いたアリスは笑いながらこう言いました。
「私はお姉様の傍に居られればそれで幸せだ」
心の底からそう思ってるのが伝わってきました。私はそんなアリスに守られながら過ごし、三学年になる一ヶ月ほど前に奇跡は起こりました。
アリスが恋をしていた少年が生きていた。
アリスが毎年の恒例となっている、少年と出会った村の跡地への訪問。その帰途にて少年と再会を果たしたということ。
城へと帰ってきたアリスが私に嬉しそうに話す姿を見て、良かったと心から思いました。
それからはあっという間でした。
アリスがその少年と婚約することになったのです。
少年にはその後も他の婚約者が出来ましたが、たまに城へと顔を出し、私に色々なことを話してくれるアリスはとても幸せそうで。
そして私は決意しました。アリスを幸せにしてくれる人が現れた。それだけで私はもう満足だから。
十八歳になったら国の益になるように、有力貴族と結婚すると。それが私の幸せに繋がるとお父様を説得する。
そんな決意を固めた私に一つの報告が届きました。九月に行われる武闘大会の挨拶にアリスの婚約者である少年が付いてくると。
アリスの話で聞いたことしか知らない為、軽い気持ちではありましたがどんな男の子か見極めてやろうと思いました。
アリスを上回るほどの力を持ち、さらには世界を救ったとされる英雄、その息子である彼。
実際に会ってみるとそれらに溺れることない、彼はただただ普通の少年であった。
むしろ子供っぽいという印象さえ受けた。
そんな彼との首都観光はとても楽しいものだった。知らないことも多く知れた。
さらに彼は人とぶつかって立ち上がれなくなったお年寄りを助けた。さも助けるのが当たり前かのように。
私は思わず尋ねてしまいました。どうして助けたのかと。
案の定、彼は当たり前のことだからと答えました。さらにはもう一言。
「でも、自分の手が届くところにいるのに助けないで、後になって後悔するのは嫌なんだ。俺は、助けを求める人がいたら絶対に見捨てない」
そう言った後、彼は変なことを言ってしまったと乾いた笑いをしました。その笑みにはとても深い陰が感じられました。
この人は、苦難を乗り越え今ここにいるのだと悟りました。
さっきまでは子供のようにはしゃいでいた彼は、そんな大変な過去を持っている。
そんなことを考えていると、彼は私の手を取って城へと向かいだしました。
私の手を握る大きな手、先程の自身の発言を思い出して恥ずかしがっている姿を見て、私は確信しました。
この人になら、アリスを任せられる。アリスを幸せにしてくれると。
幼い頃から私の為に鍛錬を続けてきたアリス。そんなアリスの番はもうお終い。これからは私の番です。
城に着いて武闘大会に関する挨拶を済ませて部屋を退出しようとした時、一人の女の子が入ってきました。その女の子、獣人国の第一王女様は彼に決闘を申込みました。なぜか私も巻き込まれてしまいました。
そして結果としては私の惨敗。それはそうです。私には力など無いのだから。
そんな私と戦った彼女は様々な言葉を私に投げ掛けてきました。
その言葉を聞いていて、既に諦めた武の道で負けた悔しさが。そして何よりアリスに守られてきたということを再認識させられて、私の不甲斐なさに思わず涙がこぼれてしまいました。
そんな私を見て、彼は怒りを覚えたようでした。彼と戦えることに興奮を隠せない彼女と、格の違いを教えると宣言する彼。
力を出せないとはいえ、相手の実力を測ることなら今の私だって出来ます。彼女はかなり強い、最強の肩書きが相応しいほどに。
いくら彼とはいえ、かなりの苦戦を強いられると思っていました。
しかしそこには、一方的な試合が繰り広げられていました。
お読みいただきありがとうございました。
シャルの苦難、アリスが剣を始めた理由、王様の娘を想う気持ちなどが伝わるような内容にしたつもりです。
「甘えん坊」の回でのアリスの最強は私ではなくお姉さまといったセリフはこのような理由がありました。
王妃が今まで出てこなかったのも、すでにこの世にいなかったからです。
過去話を書くと本当に筋が通っているか不安になりますね……
筆者のモチベーション向上にもつながりますので、よろしければ是非ブックマークや評価をお願いします。感想もお待ちしております。




