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絶対守護者の学園生活記  作者: 若鷺(わかさぎ)
第9章 ???~決戦編~
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始まりと終わり

 魔王にトドメを刺され、倒れていた俺は目を覚ました。胸に穴が空いているのが空気の通過によりわかる。だからと言って慌てはしない。生きている、それだけで充分だ。


「つまらぬ前座だったわ」


 俺の目覚めに魔王は気付かず、背を向けて離れていく。本番はこれからだと教えてやろうじゃないか。


 起き上がろうと力を入れるがピクリとも動かない。だが大丈夫だ。きっとすぐに――――


「レオン! 起きろレオン!!」


 ほら来た。声が聞こえてくる。だから立ち向かえる。


「起きろこの馬鹿息子! それでも俺の自慢の息子か!」


 声がでかくてうるさいぞ俺の自慢の父親よ。それにそのセリフだと変な意味に聞こえてくるぞ。


「……起きて自慢の馬鹿息子。それでも私の自慢の息子か」


 親父と同じセリフを感情の乗らない声で言う母さん。だけど心に響くのはそのおっとりした性格故か。


「まだ殺り合う約束を果たしてもらってないぞ! さっさと帰ってくるのじゃ!」


 死にかけの人に何言ってるんだこの学園長(戦闘狂)は。


「おらさっさと終わらせてこい! そしたらその……俺の伴侶に……」


 ハンナの馬鹿でかい元気な声で心が引き締まる。だけど最後の方は小さすぎて聞こえなかった。


「姉を頼んだぞ……レオン……」


 分かってるよクラリリス。帰ったら三人でお茶でもしよう。だから泣くな。


「撫でて」


 帰ったら好きなだけ撫でてやるよルゥ。

 ……え?それだけ?短くない?


「レオンが死んだら俺が嫁さん達を幸せにしてやる。だから安心して死んいてててててて!!!」


 馬鹿(マルク)の言葉は痛みによって途中で遮られたようだ。ざまぁみろ。


「ごめんなさいレオンさん……マーくんにはたっぷりお仕置きしておくので頑張ってください」


 おう、そっちも頑張ってくれ。


 少しずつだが力が湧いてくる。だけどまだ足りない。でもきっと……

 

「レオン君。まだ私は貴方と過ごした時間が短いです。もっと一緒にいたい。だから絶対に無事に戻ってきてください」


 了解ですリーゼさん。こんなのカレンに殴られる痛みに比べたらささいなもんですよ。


「レオン君。……何を言おうとしてたのか忘れてしまいました。とりあえず頑張ってください」


 シャルさんそれはないんじゃないかい?まぁでもシャルらしくっていいな。むしろほっとする。


「パパ……ふにゅ……」


 あらら、クーは夢の世界か。きっと可愛らしい寝顔なんだろうな。後で思う存分頬をぷにぷにさせてもらおう。


「私の生きる意味でいてくれるのだろう? それに妻と子を残していくような男でないのは分かっている。だから私からは何も無い」


 何も無いと言いつつも物凄いプレッシャーかけてるぞソフィ。でもその通りだ。


「か、帰ってきたら好きなだけもふもふしていいから……ね?」


 まじ?やっぱり無しとかは駄目だぞ?俄然やる気が湧いてきた。ミーナは可愛いなぁ。


「私との約束は忘れてはいないよな?ちゃんと守ってくれるのなら、胸でその、してやるから……ひっ!」


 三大欲求のうちの一つを攻めてくるとはやるなアリス。照れながらも言ったのだと思うと、愛おしさが湧く。最後の悲鳴は胸無し族(カレン)に睨まれたのだろう。


「……ファイト、レオ兄」


 愛する妹の声援は兄にとっては絶大な効果を発揮する。お兄ちゃん頑張る。



 俺が世話になってきた人達の声が力となる。俺の足はしっかりと地を踏みしめていた。


「な、なぜ生きている!」


 俺の立ち上がる気配を感じたのか、こちらを向いて驚く魔王。少しスカッとした。


 体は動くが声が上手く出ない。無言でゆっくりと魔王の元へと向かう。


「来るな!来るんじゃない!」


 俺からただならぬものを感じたのか、焦りながらも攻撃してくる。魔力を固めた黒の弾丸が、俺の体を次々と貫通していく。


 痛いし体のあちこちから液体が流れ出るのを感じる。視界も霞んできた。だけど歩みを止めることは無い。もう生きてるのか死んでるのかすら分からない。


「か、体が動かん!」


 まるで何者かによって羽交い締めされたかのように、その場に固まってしまっている魔王。目覚める前に聞いた声が頭に微かに響いた気がした。


 確実に一歩ずつ詰めた距離が、ほぼ無くなる。

 ほとんど言うことを聞かない右腕を、気合で上げる。

 手のひらを、魔王の胸に添える。

 後は一つの動作を行えば、全てが終わる。


 終わらせる時には、俺がこんな道を歩むことになったきっかけとなった惨劇の時と同じ言葉で締めるのがいいだろう。あの時が始まりで、これが終わりとなる。


 たった一言だ。声を捻り出すように腹に力を入れて、宣言する。


「消えろ」


 瞬間、体の力が抜けたのかリーフェさんの体がこちらに倒れてくる。抑える力も無かったので巻き込まれてそのまま一緒に倒れてしまう。


 もう限界だ。薄れゆく意識の中で、声が聞こえた。


「お疲れ様、レオン。帰ってきたら殴らせてね?」


 無意識に異議を唱えていた。


「理不尽すぎる……」


 こうして、魔王との戦いは終わりを迎えた。


お読みいただきありがとうございました。

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