女王様
「ほら! 早く次行くわよ!」
「へいへい……」
最後の相手は俺を含めた屋敷のメンバー全員の頂点に君臨せし女王様のカレンである。本物の王女がいる中でなぜかリーダー的存在になっているし女王様でいいだろ。今も俺の腕を強引に引っ張りながらいろんな出し物を回っているし。興味を引かれるものを見つけると止まって俺の腕に抱き着きながらはしゃいでるのは年相応の女の子って感じで可愛いんだが……悲しいことに感触が……
「なにかしら?」
ごめんなさい!謝るんでその般若のスタ〇ドはしまってください!
「それにしても平和ねえ」
「そうっすね……」
どうにかカレンの怒りを鎮めた俺達は当てもなく校舎内をぶらぶらしていた。すれ違う人達がちらちら見てきたりするが、流石に慣れた。
一生懸命客引きをする生徒、問題がないか見回りをする教師、楽しそうにしているカップルや親子連れ。カレンの言う通り、平和だとしみじみ感じさせてくれる。
「そういえばリリィと村の近くにある湖に行ったらしいじゃない」
「そうだな」
「私と一緒に行く約束してたのは覚えてる?」
「あー……すまん、覚えてない」
「ふん!」
「いてぇ!」
思いっきり足を踏まれた……
それはともかく、約束約束………あっ。
「まだ村にいたころに子供達とピクニックに行った時か」
「そうよ」
あれから五年以上経つのか……
「なんていうか、あの時は若かったなぁ……」
「遠い目しておじいちゃんみたいなこと言わないの。今も充分若いでしょ」
「そうなんだけどさ? やたらと濃い時間を過ごしてきたせいかどうにもなぁ」
「気持ちは分からなくはないけど……」
まだこの学園に来て五ヵ月なんだよな。同じような日々があと二年以上続いたら俺は過労死でもするんじゃないだろうか。流石にないか。
「そんなおじいちゃんを労わってあげるのが私達の仕事ね」
「おお、すまんね婆さんや」
「殺すわよ?」
「理不尽すぎる……」
王女様は今日もキレッキレみたいだ。いつも通りのジョークを交えた気楽な会話だ。
「まあ……いつかその呼び方が本当になる時が来る……でしょ?」
頬を赤らめ、期待のこもった目で見つめてくるカレン。そんな彼女の様子に愛おしさがこみあげてくる。カレンは先程のジョークとは違い、本気でそのように言っている。周りの目など気にせずに、二人で屋敷の俺の部屋へと転移した。
学園祭デートだったはずが、割と別の場所に行っている気がするが気にしない。今はただ、溢れ出てくる想いを大事にしたい。
何も言わずに転移したにも関わらずカレンは驚きもしていない。そんな彼女を俺は正面から抱きしめた。俺の背にもきゅっと腕が回される。ゼロ距離でくっついているせいか、物音一つ無い室内の影響もあって早まる鼓動の音が微かに聞こえた気がした。今、この場所だけは別の次元であるかのような、そんな錯覚に陥ってしまうぐらいに俺はカレンの事しか見えていなかったし、考えられなかった。
とても愛おしい、俺を支えてくれようと頑張る華奢な女の子の体から感じる温かさ。ただただ想いが溢れてくる。カレンも同じようなことを考えていたりするのだろうか。
体をほんの少しだけ離し、カレンの表情を確認するために少しだけ見下ろす。するとちょうどカレンも俺を見上げてきて目が合った。
その目は熱に浮かされているかのような、そんな目だった。
どちらからともなく、顔が近付いていく。そして重なり合うそれは、甘美的なものだった。
カレンの想いがしっかりと伝わってくる、そんな口付け。
止まることなく求めあう。段々と貪るようなものへと変わっていくにつれて、高ぶってくる欲望。昨日も散々したにも関わらず、俺の手が自然とカレンが気にしている場所へと向かっていく。そして、触れた。
「んふ……」
いまだに繋がっていた口から少しだけ息を漏らしていたが、嫌がる素振りは見せなかった。むしろ嬉々として受け入れているようにも見える。しばらく優しく撫でるように手を動かしていると、ぴくっとカレンの体が揺れた。
「レオン……もう……」
カレンはその先は何も言わなかった。しかし太腿をもじもじとこすり合わせている様子からして、そういうことなのだろう。
既に足に力が入りづらくなっているカレンを優しく抱きかかえるとベッドまで誘導する。そして仰向けに押し倒して覆いかぶさる。
「私を……めちゃくちゃにして?」
甘えるかのような声でそんなことを言われてしまい、俺の理性の糸はあっさりと切れたのだった。
※※※
愛を確認しあった後、しっかりと後処理をして学園へと戻ってきた。終了までもうすぐといった時間帯になっており、客もまばらになっていた。生徒しか参加できない後夜祭なるものもあるらしいが、屋敷の一同……いいや、家族一同で屋上に集まって俺達だけでの後夜祭をそこでやることになっている。きっと俺とカレン以外のメンバーは既に揃っている気がする。
足取り軽やかに俺の前を歩いていたカレンだったが、くるっと体の向きを変えてこちらを向いてきた。
「皆の事だから、絶対帰って来いとかは言ってきたんでしょ? アリス辺りは言いそうね」
「言われたな」
「というわけで私からも一つ」
右手で握り拳を作り、俺の胸へとコツンと当ててくる。
「魔王なんて、けちょんけちょんにしてきなさい!!」
……カレンらしいな。
「かしこまりました、女王様」
「よろしい!」
そう言ってカレンは、最高の笑顔を見せてくれた。
お読みいただきありがとうございました。




