立場は違えど
主人公久しぶりの登場。
魔族の男ゴラムは黒い魔力弾を幾つも放ち続ける。レオンは刀でそれらを切り裂き消滅させながら距離を詰める。
学内最強決定戦の時にも見た魔法であるが、威力は高くはなく、容易に消し飛ばせた。
ゴラムは時間稼ぎが目的だと言っていた。ならば様子見をする暇はない。最初から全力で相手をするのみ。
身体強化を施し、ひたすら斬りつける。その斬撃は時が経ったことでダルク戦の時よりも鋭さは増している。もし現在のレオンがダルクと純粋な打ち合いをしていれば勝利が見えるほどに。
しかし全てを腕で防がれる。いなすわけではない、ゴラム全てに反応し腕で受け止めた。
レオンは身体にも武器にも強化を施しているが、刃が通らない。
それほどまでにゴラムの防御は強固であった。
「硬すぎだろっ！ こんな攻撃じゃ屁でもないってか！」
吐き捨てるように声を上げるが、攻撃の手は緩めない。
レオンの今回の戦いには魔族の侵攻を防ぐ目的と同時に、リーゼを絶望の状況から救う目的もある。
その為にはリーゼの活躍をセーフゾーンから戦いを見守っている観客達に見せつけなければならない。
レオンはリーゼが攻撃を与えられる隙を作り出さなければならない。
レオンは一つの決断をする。
一刻も早くこの戦闘を終わらせ、他の場所で戦っている皆の助太刀をする為になるべくなら魔力を残しておきたかった。大切な者を守る為に、万全の状態でいたかった。
しかしこのままでは決着は着かず、相手の目論見通りに時間を稼がれてしまう。
もったいぶっている場合ではない。
転移を発動し距離をとると、空間魔法を発動する。
異空間に収納していた様々な武器を宙に、ゴラムを囲うようにして出現させる。
ダルク戦でも使った最終兵器。
数え切れないほどの武器がゴラムに襲い掛かる。
そしてゴラムの身体が貫かれる、その瞬間――
「はっ！！！！！！」
一喝。
たったそれだけで武器が全て吹き飛んだ。
「おいおい、規格外すぎんだろ」
今度は呆れるように呟くレオン。
「感情を捨ててまでも身に付けたこの力。生半可な攻撃は通用しない」
そこまでして手に入れたかった力。レオンは今までに何度も聞かれた問いを、ゴラムにぶつけた。
「お前はどうしてそこまで強くなった？」
ただ純粋に聞いてみたかった。もしかしたら。そんな気持ちもあった
「……愛する妻の為、そして今は亡き愛する娘の為だ」
これは――
「私は娘を見殺しにしてしまった。妻の、私達の大切な者を助けられなかった。私に力があれば、何度思ったことか。唯一残された大切な存在である妻の為に、私はこの力を使う」
――自分と同じだ。
一度は滅ばされるほどの被害を受けた相手に、再び挑んできた魔族。そこにはそれ相応の覚悟がきっとあったのだろう。
レオンは同情の念を抱きそうになるが、どうにかして振り払う。
相手には相手の、自分には自分の立場がある。
「ならその力を見せてみろ」
レオンは腰を落とし、居合の構えをとる。いくら攻撃を重ねようと防がれてしまうなら、自身の全身全霊を傾けた一撃できめる。
「来い」
ゴラムは自信があるのか、それとも受け止めるしか出来ないのか不明だが攻め来る気配はなく、受けて立つようだ。
レオンは呼吸を整え、目を閉じる。
思えば様々な面倒ごとに巻き込まれてきた。
最初はカレンとリリィを守るために死に物狂いで手に入れた力。それがいつしかさらに多くの者を守る為の力になっていた。
力があるとはいえ何も起きないのが一番であったはずなのに、魔物に襲われているアリスを助けた。さらにはユウを救うために子爵家を潰した。王子が起こしたドラゴン騒動にも巻き込まれた。他にはダルクと決闘だったり、クローン騒動だったりと、普通とは到底言えないような時を過ごしてきた。
それと一緒に、守るべき大切な人も増えた。
自分を支えてくれる皆を想うと、胸が温かくなる。
少しだけだが、体が軽くなった気がした。
レオンとゴラム。二人の間には緊張した空気が漂う。
そして、動き出す時が来た。
会場全体を揺らすかのように響く雷鳴。
それを合図にレオンはその場から消えた。
急速にゴラムへと迫り、通り過ぎざまの一閃。
(くっそ！浅い！)
結果としてはレオンにとっては納得のいくものではなかった。
ゴラムはどうにかといった様子で反応し、腕を交差させて防いでいた。その腕すらも切り落とすほどの威力を備えたはずの一閃であったが、相手が一枚上手であったようだ。
だがゴラムにもかなりのダメージが通っていた。少なくとも万全の状態ではないと見て取れるほどには腕から流血している。
一方レオンにはまだ余裕がある。
これでリーゼが手を出せる場面が作れる。
そう考えたレオンがゴラムへと追撃をかけようとしたその瞬間。
「があああああああああああああ！！！！」
レオンの背中に、意図せず叫ぶほどの激痛が走った。
それは、呪いをかけられた傷跡から発せられていた。
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