キャンパスの絵
んー、まあ暇だしとりあえず硬直してるありすでも描こうかね!
俺は暇潰しスキルが非常に高いから何時間待たされても平気なのだ!
お腹空いたらなんか食いに戻るけどね
「さて…とりあえず距離を取ろうかね…」
折角、絵を描くなら全身が描きたい。
別に絵描きでもないのだけれど、人を描くのなら全身を描きたい。
理由とかはないし、俺は絵を描くのが得意という訳でもないので、ここで絵を描く必要などないのだが、まあなんだ…。
オタクなら…いや誰でも一度はあるんじゃないだろうか?
何となく絵を描いてみたくなる時が。
それが今だっただけである。他の理由など…暇だったからという以外に他意はない!
「ふむ…」
とりあえず、後ろに下がり立って描くのもきついので道路の上であぐらをかくことにした。
すると、俺の頭の高さがありすの胸くらいの高さになり、「あ、これあかんわ」俺は何か危険な予感を感じて即座に立った。
いや、なんかな…?あのままでいると警察に呼ばれそうな気がしたんだよな…。
…仕方ない。立ったまま描くか。
ちょっと体勢がきついけどな。
俺はシャーペンを握ってありすを描き始めた。
絵を描くというのは、簡単そうに見えてやってみると意外と難しいものだ。
何故なら絵を上手く描くには被写体を物凄く細かいところまで見なければならないからだ。
俺は知識としてそのことを知っているが、やはり実践するのと知っているのとは違うものでなかなか苦戦させられていた。
だが、それだけに絵を描き出すとその人物の外見が嫌でもよく分かる。
ありすの銀髪は少し跳ねてるなとか今は夏だというのに、まるで乾いた白い砂浜のように肌が白いなとか
白いワンピースはこんな感じの可愛い女の子にはよく似合うよなーとか
さっき、俺の隣に座り込んでいたからか若干お尻の辺りに土が付いているなとか
まぁ、見ていればよく分かった。
そんな感じでなんかこの思考若干ストーカーっぽいなとか思いながら、簡単にさら~っとありすを描きあげた。
まあ、時間もそんなに掛けてないし適当に描いたので、比べるまでもなく下手くそな絵である。
絵を評価するなら自信の無い薄い線の羅列で束ねて作られたふわふわした絵である。
上手い人は線がもっとしっかりしてんだろうな…。
妹が昔言っていた。
俺の絵は線の乱雑だと。
実際、俺の絵は線を幾つも掛け合わせて作った頼りないものだ。
しっかりした一本線じゃないから、境界が曖昧で分かりづらい。
だから、駄目だし喰らった。
だが、そんな俺でも見たままを描くだけなら一本線で描ける。
オリジナルで作り出した絵は乱雑でも見たままを描くのは違いがわかりやすいから一本線で描けるからな。
「…」
でも、俺の絵は乱雑じゃなくても、一本線であってもどうやら絵を描くのは下手くそらしい。
線がところどころ迷ってる。それに絵をちゃんと見てなかったせいでバランスがおかしいことになってる。
「あー…駄目だなぁ」
やがて、ありすがトリップから帰ってきた。
急に何かに気付いたように「はっ!」という顔をして顔を左右に振ると後ろでありすの観察をしている俺を見つけた。
「んー?どうしたよ」
「どうしたじゃないよ! 何を勝手に描いてるの!?」
なんだぁ? 照れてるのか?
戻ってくるなりテンション高いじゃないの。
んじゃ、俺もテンションあげますかねぇ!
「そんじゃまぁありすも帰ってきたし、海行くかぁ!」
「帰ってきたってここ家じゃないよ!」
「おっと、そうだった。俺の間違いだったな」
「そうだよ!」
少女にそんなスラング通じる訳ないのに、何を言ってんだろうな俺は。
まあ、いいや。とにかく、海目指して行こうじゃないの!
俺はいつものご機嫌な笑みを浮かべながら、道を歩き出した。
そういや、絵は結局のところ完成出来なかったな。
下手でもいいからこういうのはちゃんと描いとくのがいいんだが…まあどうせ誰に見せるわけでもねぇし別にいいか。
またちょっと描きたくなったら描けばいい。
俺から見た絵なんてものは多分そんなもんだ。