湿
蜘蛛の巣に、薄いスジの細長い翅がかかって、
初夏の湿気が、泥のにおいを巻き上げて、
真空状態の心臓部分に、
菌糸みたいな小骨がぴりぴりはじけている
虹彩のどんづまりを超克した、ゼリー状の、
子供のカワセミだ
積みたてのブロック塀の陰から身を乗り出した
ものをしらない地元の子供
見晴らしのよいあかるみで、
水の這うすじが、わたしから見て真直ぐ向こうへ
砂を踏むような音を立てており、
稲穂のこすれる音に代わりおり、
天気が雨に変わったら
見晴らしのよいあかるみに
幼子の深緑色した振れ動く虹彩の
どんづまりを踏破する
薄ら馬鹿の、
みっしり詰まった五臓六腑のどんづまりを
夏夜の雨音は超克する
草いきれ薄翅を染みて
噎せ返るような虫のにおい