予感。
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「なんという力でしょう……。我が国が誇る第一魔導士団がまるで子供扱い。その上、周囲に張り巡らせている魔法障壁を全くものともしないとは……」
グリーゼはローブのフードで左目を隠しながら感嘆の息を漏らす。傍らへとやって来ていた王は苦笑し、
「流石は『女神』と言ったところか。あれでこそ我が妻にふさわしい……と言いたいところだが、もう戻ってきてはくれないだろうな。やはり『女神』など、私には遠く縁のない存在か」
「牢の中身がすり替わっていること、やはり王もお気づきでしたか」
と、ベランダに出て来たのはシリウスである。鉄兜を脱いで、その美しい金髪を風になびかせながら、女神たちの去っていった空を遠く見上げる。
王はやや顔を険しくさせて、
「シリウス。今は警戒態勢中のはずだが、なぜお前がここにいる」
「王がこちらへ向かったとお聞きいたしまして、急ぎ駆けつけたのでございます」
「よく言いますね。どうせあなたのことですから、『女性に刃など向けたくなかった』だとか、そんなことを後で自慢げに言うのでしょう」
グリーゼが冷笑を向けると、シリウスも冷笑を返し、
「お前も、直接交渉にあたったにしてはずいぶん簡単に行かせてしまったものだな。彼女こそが、この国の希望の光なのではなかったのか?」
「女の勘ですよ」
「女の勘?」
「ええ、彼女たちは、きっとここへ戻ってきます」
「何? 本当か」
王がその疲れた目に微かな驚きと喜びを浮かべてこちらを見下ろす。グリーゼは静かに微笑し、
「所詮は女の勘、単なる願望です。どうぞアテになどなさらないでください」
そう言いながらも、どこかその声には自信の色が滲み出している。
そんなグリーゼの微笑を、シリウスは冷ややかな眼差しで見つめていた。
何か嫌な予感がする。そう感じつつも、この予感が何を意味しているのか、シリウスでさえ、今はまだ知ることができなかったのだった……。
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