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乳ワールド-異世界降誕ノ章-  作者: 茅原
女神降誕ノ章
6/61

恐れと迷い。(りんご視点)

  ○  ○  ○


 ちらりと様子を窺うと、勇登は何食わぬ顔で板書を写している。


 と、こちらの視線を感じたのか、その目がこちらを向く。りんごはすぐに目を逸らし、顔を前へと向ける。


 人にあんなことをしておきながら、平然と授業を受けていることがムカついたが、何よりもそれを含めて、勇登の頭のおかしさにりんごは戸惑っていた。


 勇登は男にも拘わらず、『乳ワールド』――女の世界のことを熟知している。それなら乳安委員会の怖さも知っているはずなのに、どうしてこんな大それたことを大真面目に考えられるのか。


 ――やりたいなら、一人でやってよ。なんであたしを巻き込むのよっ!


 『女神派』の設立? 正気とは思えない。そんなことを本気でやれば、間違いなくただでは済まない。本当に死んでしまうかもしれない。


 いや、死ぬに違いないのだ。死ぬに違いないのに、どうして無関係の自分を巻き込もうとするのか、その神経が信じられない。しかし、


『君には誰か、想いを伝えたい人がいるんだろう?』


まるで急所を突くような勇登の言葉が、頭から離れない。


『りんご、君には確かに力がある。そして力を持つ者には、戦う義務がある』


 ――力? あたしに、本当に戦う力なんてあるの……?


真っ白なノートの上にシャープペンを転がし、目を窓の外へ向ける。


 咲き誇るように真っ赤に染まったもみじの葉が、秋の高い青空を背に、何か言いたげにさやさやと揺れている。


  ○  ○  ○

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