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乳ワールド-異世界降誕ノ章-  作者: 茅原
異世界降誕ノ章
58/61

乳魔法。part3

 リラは泣きそうな顔で、強烈な光線を放射する自らの乳首を見下ろす。


「ど、どうした、そなたら? いったい何が――」

「イヤっ! 来ちゃダメですっ!」

 

 ダインが駆け寄って来ると、リラがその胸を慌てた様子で隠す。その乳は服の下に隠されるが、しかしどうやらその発光現象はまだ続いていた。そして、異変はそれだけではなかった。


「ダインさん、それにシャルナクさんも……?」

 

 勇登は二人の姿を見て呆然とする。なぜかまだローブをたくし上げ続けているダインの乳首もまた白く光り、シャルナクの半袖からも同じ色の光が淡く漏れ出していたのである。

 

 まさか――

 

 ハッとしながら、勇登は襟の中を覗き込んで自らのそれも確認する。と、やはり勇登のそれもまたぼんやりと輝いていた。だが、男三人の乳首の輝きは、リラの放つ光ほど強くはない。これはまるで、


「共鳴……しているのか?」

 

 リラの乳が放つ強力な力によって、周囲の人間の乳に宿る何かが目覚めようとしているようだ。そう感じて勇登が呟くと、


「うむ。乳の精霊が、互いを呼び合っておるのやもしれぬ……。正直もう、わしにも何がなんだか解らぬが……」


 ダインが困惑の色を浮かべながら、男連中の胸を見比べる。


「……リラさん、もう一度、乳を見せていただけませんか」

「は、はい……」


 医者に助けを求める患者のように、リラはほぼ恥じらう様子もなく、ダインとシャルナクには背を向けながらその上着をたくし上げる。

 

 瞬間、まさしく光の矢が勇登の顔のすぐ傍を貫いた。鉛筆ほどの細さにまで凝縮された光を放つリラの乳へ、勇登は恐る恐る手を伸ばし、触れてみる。

 

 乳房は変わらずふわりと柔らかく、温かい。だが、この光はどうだろう。勇登は傍に落ちていた木の葉を手に取り、その光線に当ててみる。

 

 しかし、何も起きはしない。発火するわけでもなく、物理的に貫通するわけでもない。

 

 どうやら危険なものではないらしい。それならばと、勇登はレーザー光線と、その出所に直接、触れてみる。それでもやはり危険は認められなかったが――勇登は気がついた。

 

 勇登がリラの乳首に触れる瞬間、リラが身構えるようにほんのわずか身体を前に傾けたのだが、放たれる光と地面との角度が、なぜか変化しなかったのである。

 

 ――この光、何かを指し示しているのか……?


「ダインさん、シャルナクさん、この光の先に何か特別な場所などはありますか?」

「特別な場所? はて……シャルナク、お前は何か知っておるか?」

「コノ先ニアルノハ、タダノ崖ダ。何モナイ」

 

 しかし、ダインとシャルナクに後ろを向いてもらい、リラの身体をあらゆる方向に向かせてみたり、左右の乳を握って別の方向へと向けてみたりとしてみたが、やはり間違いない。光はコンパスのように狂いなく一方向を指し続けている。


「……行ってみましょう」

 

 リラを先頭に、勇登たちは光の指し示す先へと向かって歩き始めた。

 

 光の指すまま、当然ながら道なき道を、時には勇登が先頭に立って茂みを掻き分けながら進んだ。

 

 するとやがて、シャルナクの言う通り、高い岩壁に行き当たった。高さ三十メートルはあろうかというような、断崖の下である。

 

 二条の光は、その崖沿いに立っている、勇登の身長と同じくらいの大きな岩の中央を指していた。


「リラさん、ありがとうございました」

 

 朝の、まだ空気が冷たい時間帯である。寒かっただろう。勇登は制服の上着を脱いで、それをリラの肩にかけてやりながら言う。


「この岩の向こうに、何かあるんですか……?」

 

 リラが服を直しながら、しげしげと岩を観察する。勇登はその岩に触れてみるが、それはハリボテでもなんでもない、見た目どおりの巨岩である。つまり、壊すことも動かすこともできそうにない。


「ソノ岩ヲ壊シタイノカ」

 

 半ば途方に暮れていると、後ろからシャルナクが進み出てきた。


「はい、この先に何かがある――ような気がするのですが」

「……下ガッテイロ」

 

 言って、シャルナクは岩の前に立つ。勇登とリラが下がると、隣のダインが言う。


「そなたは勝負に勝った。シャルナクは、そなたを認めたのじゃ」

「いえ、しかし、僕はまだ何も……」

「わしはまだなんとも言えぬが、シャルナクは先程の現象を乳の精霊によるものだと認めたらしい。そう決めたとなれば、あやつは頑固じゃぞ。そなたが上で、自分が下じゃ。これは余程のことがない限り揺るぎはせん」

「はあ……」

 

 これでよかったのかと申し訳ないような気がするが、勝負などに構っている暇がない今の状況を考えれば、幸運であったと喜ぶべきだろう。

 

 それに、今はそのようなことを気にするよりも、シャルナクが何をしようとしているかである。

 

 筋肉が盛り上がって小さな岩のようにも見えるシャルナクの背中を見つめていると、やがて鳥のさえずる声と葉のさやぎの中に、低い声が混じった。


「炎海ヨリ生マレシ神ノ御子、我ハ御身ノ下ニ跪ク者ナリ、御身ノ御業(みわざ)ヲ崇モウ者ナリ。我ノ言ノ葉ニ偽リナシ、行行(ゆくゆく)コノ身ハ巌トナラン。コノ身ハ御身ノモナレバ、(なにとぞ)我ニ御業ヲ与エン。――目覚メヨ、インナー・ソウル」

 

 と、シャルナクが岩に手を軽く当てながら言い終えた時だった。

 

 岩がわずかにピシッと軋んだと思うと、直後、それは液体のように空へと伸び上がった。伸び上がりながら、それは馬らしき頭、足、胴体を滑らかに作り上げ――ドシンと着地した時には、立派な一頭の馬と化していた。そしてその岩の馬は、こちらを振り向くこともなく、どこかへと走り去っていった……。


「今のが、魔法……」


 その深い胸の谷間に埋めるように、こちらの腕にしがみついてくるリラの手を握りながら、勇登はただ呆然とする。ダインは満足げに頷く。


「うむ、そうじゃ。――シャルナク、そなた、わしがおらんからといって、怠けてばかりおったわけではなさそうじゃの」

「…………」

 

 師匠であるダインに褒められても、嬉しがることはおろか返事さえもせず、シャルナクはむすっとしたような表情のまま脇へと避け、


「コノ先ニ進ミタカッタノダロウ。行クガイイ」

「え、ええ、ありがとうございます、シャルナクさん」

「特に……何も気配はないな。危険な場所ではないようじゃが……」

「……ならば、行ってみましょう」

「いや、念のため、わしが先に行こう」


 と、ダインがその前に白い魔法の光を灯して先頭に立ち、洞穴の中へと足を踏み入れる。

 

 それは勇登の身長よりもやや低い、幅の狭い洞穴で、壁には何やら人の手によって掘り進められたような形跡があった。土中で繁殖したカビの臭いだろうか、籠もった空気には、饐えたような臭いがつんと混じっている。


 その中をダインに導かれて歩くこと数メートル、洞穴の入り口が見えるさほど深くない場所で、ダインは足を止めた。

 

 突き当たりになっているその場所は、小さなドーム状の部屋のようになっていて、奥には石像のような物が一つ、置かれてある。

 

 よく見てみると、それは台座の上に置かれた女性の胸像である。太古の民が作ったような荒削りな像だったが、その長い髪や、露わにされた豊かな乳房は不思議なほど艶めかしく、魔を感じさせる異様な魅力を漂わせていた。


「これは、おそらくルーナ・レピドゥスの像であろう」

「女神の石像……ですか。となると、ここは神聖な祈りの場だったのでしょうか」

「かもしれぬな。なんらかの理由でこの地を離れねばならなくなった民たちが、他の者をここへ立ち入らせぬために入り口を塞いだ……というように見える」

「……確かに、ここは単なる祈りの場というだけでもなさそうです」

 

 と、勇登はすぐ後ろに立っているリラを振り返る。洞穴の暗がりの中では、その胸の輝きを布で誤魔化すことができなかったのだろう、リラは両腕で胸を隠しながら、


「あ、あの、この光、いつまで……?」

 

 解らない。解らないが、『何か』がこの光によって自分たちをここへ導いたのだとしたら、その『何か』は、こちらがここでなんらかの行動をすることを待っているはずである。ただここへ来ること自体が、それではなかったとしたら……。


「リラさん、もう一度、乳を見せてはいただけないでしょうか」

「ここで、ですか?」

「はい、その現象を早く終わらせるためにも、どうか……」

「……解りました」

 

 半ばヤケになったようにリラは言い、ダインが後ろへ下がったのを確認してから、再びその上着をたくし上げて乳を露わにする。と、やはりまだ乳首から放射され続けていた光線が闇を穿ち――ルーナ・レピドゥスの胸像の乳首を、ピタリと指し示した。

 

 そして、それだけではない。リラの乳首と胸像の乳首が光で結ばれると、まるでその光を吸い取っていくように胸像の豊かな乳全体が白く輝き出し、リラの乳首は緩やかに発光をやめた。

 

 胸像の乳は二つのライトのごとく眩く輝き始め、洞穴の中を照らし出す。この光はなんだ? 呆然としながらダインとシャルナクを振り返るが、二人とも口をポカンと開けて立ち尽くしているばかりである。

 

 しかし、ダインが警告をしないということは、禍々しい力を感じさせる類の物ではないのだろう。となれば、この光に導かれた張本人であるリラに、光に触れてみてもらいたいところだが……その前に、本当に危険がないのか、まずは自分が確認しておく必要がある。

 

 勇登は光に目を眇めながら胸像へと歩み寄り、まずはそっと指でつついてみるように、胸像の乳房に触れてみた。すると――


「きゃぁっ!」

 

 バンッ! と、すぐ傍に雷が落ちたような衝撃音が鳴り響いた。


「……ユ……ユートさん! ユートさん!?」


 誰かの叫ぶ声に目を開くと、一様に青ざめたような顔でこちらを見下ろす三つの顔が見える。

 

 勇登は痛む後頭部を押さえながら、なぜか冷たい地面に横たわっていた身体を起こし、言ったのだった。


「皆さん……誰ですか?」

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