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乳ワールド-異世界降誕ノ章-  作者: 茅原
女神降誕ノ章
28/61

パイモニー。その2

「さあ、今度は二人の番だ」


 ソファに残された、まだ体温が残っているバスタオルを手に持ちつつ勇登が言うと、翠花がハッと放心状態から脱したように言う。


「わ、私たちの出番と言われても、本当に私たちもこんなことができるの……?」

「できるかできないかではないのです。やらねばならないのです、翠花さん」

「で、でも……!」

「やってみましょう、翠花さん」


 困惑を露わにする翠花の手に、りんごはそっと自らの手を添える。


「わたしも不安ですけど……何ごとも、やってみないことには解りません。だから、やってみましょう、翠花さん。わたしたち二人でなら、きっとやれます」

「りんご……」


 翠花は細い眉をハの字にさせた不安げな表情で、りんごの震えながらも強い瞳を見つめ返す。りんごが小さく頷くと、翠花は小さく息を吐きながら肩の力を抜き、りんごの手の上に自らの手を重ねた。


「そうね……。私たちに残された時間は少ない。もう悠長なことは言っていられないのよね。……解ったわ。やってみましょう、りんご。私たち二人で」


 そう頷き合う二人の間には、確かに既に絆の糸が見える。まるで恋人のように熱く見つめ合う二人の姿に勇登はそう思いつつ、


「さあ、始めましょう。服を着たままパイモニーをすると、服がボロボロに破れてしまうから、二人共、まずは服を脱いでください。脱衣場はあっちにあります。バスタオルは自由に使ってください。ああ、りんご、エアパイツ強化装置も取ってしまって構わないぞ」


 その言葉に、二人は戸惑った顔を見せるが、


「や、やるわよ。やってやるわよ、なんだって!」


 そう勢いよくりんごは立ち上がり、翠花はそんなりんごに引きずられるようにして脱衣場へと姿を消していった。それからすぐ、指示通りに二人は服を脱ぎ、裸体にバスタオルを巻いた姿で戻ってくるが、


「…………」

「…………」


 頬を朱に染めて、ソファにも座らずもじもじと佇む。しかも、その乳は巻かれたバスタオルに厳重に隠されている。だが、誰も乳を隠すためにバスタオルなど貸していない。


「何をしている。翠花さんも何をしているんですか。早く乳を出してください。今更何を恥ずかしがっているのです。さあ、りんごも早く乳を出すんだ」

「わ、解ってるわよ、そんなこと……!」

「で、でも、ね? 勇登くん……。私たちもいちおう女性だから、その……恥じらいというか、そういうものは持っていて……」

「いちおうも何も、二人は女性を代表するほどに美しい女性です。ですから、そのような感情があることは理解しています。しかし、今は悠長なことを言ってはいられない。あなたもそう言っていたではありませんか」

「そ、それは、そうだけど……」


 と、翠花は困ったようにりんごを見るが、その視線の先で、りんごは既にバスタオルを腹部まで下ろしていた。その、小さいながらもアンダーバストの線からくっきりと膨らんだ張りのあるふくらみと、淡い桃色の乳首を見せつけるように晒しながら、りんごは耳まで真っ赤な顔で言う。


「やりましょう、翠花さん。わたしも脱ぎましたから、翠花さんも脱いでください。これで、少しは恥ずかしくないですよね?」

「りんご……。そ、そうね、ごめんなさい。年上の私が、あなたにリードをさせるなんて、これじゃダメよね」


 言って、翠花はそのバスタオルを一旦身体から軽くはだけさせ、それからヘソの上あたりまでタオルを下げて、そこで再び身体に巻き直す。釣り鐘型とも言うべき、浮き上がるように上を向いた西瓜のように大きな乳を晒し、翠花もまた顔を真っ赤にしながら、しかし毅然と言う。


「さあ、試してみましょう、パイモニーを」


勇登が椅子とテーブルを脇へと寄せて広く空けたリビングの床に、二人は真っ正面に向き合いながら立ち膝をつく。そして、その小さな美しい乳と大きな美しい乳を、月の女神と太陽の女神が邂逅したがごとく向き合わせる。


「じゃあ、二人とも、ゆっくりとお互いの乳首を近づけるんだ。焦らず、ゆっくりと」


 勇登がそう言うと、二人は不安げにこちらを見ていた目のまま互いを見つめ合い、それから小さく頷き合う。抱き寄せ合うように、互いにその手を相手の腰へと添えて、自分の乳首と相手の乳首を交互に見つつ、それを近づけ合う。


 わずかに荒くなった二人の息遣いが静かな部屋を満たし、勇登も思わず息を詰めながら、ゆっくりと近づいていく二人の優美な先端を見つめる。と、


「きゃっ!?」

「っ!」


 今にも美しき桃色と桃色とが巡り会いを果たそうとしていたその時、バチリと火花のような閃光が走り、りんごと翠花が突き飛ばされたように互いの背後へと倒れた。


「大丈夫か、二人とも!」


 勇登はすぐさまりんご、翠花と順に起こしつつ、二人の乳首をよく確認する。


 パイモニーを失敗すると、このようにヴァイスが放電したような状態になることは知っていた。しかし、自分と父より格段にヴァイスを持った二人だから、パイモニーを失敗しただけで負傷をしてしまうかもしれない。


 阿呆のようにそのリスクを完全に忘れていた勇登は慌てたが、赤ちゃんの肌のように柔らかい二人の乳首が無傷で美しいままであるのを確認して安堵する。


 がしかし、やはり相当痛かったのだろう。翠花は乳を押さえている腕からこぼれている自らの乳首と、両乳首を手で押さえて涙目になっているりんごの乳を見て言う。


「やっぱり、私たちにこんなことなんて無理なんじゃ……? だって、こんなに痛いなんて……」

「いいえ、翠花さん、無理なんかじゃありません。痛みの先にこそ、未来はあるものです」


 そう言って、それから勇登はハッと気づいて冷凍庫へ向かい、そこに入れられている保冷剤を四つ取り出して二人のもとへ戻る。そのうち二つを父が使っていたバスタオルで軽く包み、翠花に手渡す。それからもう二つの保冷剤は、やむをえない、自らが腰に巻いていたバスタオルを外し、


「さあ、りんご、これで早く乳首を冷やすんだ」


 と、それに包んでりんごに渡そうとしたが、りんごはまるでゴキブリでも見たような顔で叫んだ。


「な、何してんのよ! バカじゃないの、あんた!? み、見えてるから! っていうか、丸出しだから! ささ、さっさと隠せ、バカ!」

「バカはお前だ!」


 勇登は、保冷剤ごとこちらへバスタオルを突き返してくるりんごを怒鳴りつける。


「お前たちの乳は世界の宝なんだぞ。乳首に傷やアザが残るなどというようなことがあれば、それは世界の大いなる損失なんだ。それを自覚して、黙って早く乳首を冷やせ!」

「う……いや、だからそれより……!」

「『それより』じゃないだろう! お前は、自分の乳がどれだけ尊い存在であるのかを解っていないのか!? お前の乳は女神の乳なんだ! 美の象徴なんだぞ! それに傷がついたとなれば――っ、しょうがない。それなら、俺が舐めて緊急処置を――」

「ふ、ふざけんなバカ! わ、解ったわよ! 解ったからっ! 解ったから、あなたもさっさと前を隠しなさいよっ!」


 りんごはふんだくるように勇登の手からバスタオルにくるまれた保冷剤を受け取り、それを自らの乳に当てる。勇登はしっかりとそれを見届けてから、確かにもっともなことを言っているりんごの言葉に従って、手近にあったクッションで股間を隠す。


「まあ、ともかく……まさに今の現象こそ、パイモニーの片鱗です。りんごも、翠花さんも、パイモニーというものが実際に存在するものであるということが、その身をもって確信できたはずです」

「でも、まるでお互いを弾き合うように……」


 翠花が、その乳の頂を保冷剤で冷やしながら困惑の表情をする。だが、勇登はそれに微笑を返す。


「いいえ、むしろ今の現象が起きたからこそ、成功の可能性が見えました。本当にお互いに通じ合うものがなければ、何一つ起こらないはずなのですから」

「意志を、絆を一つに……。そうすれば、わたしと翠花さんも本当に一つになれるっていうこと……なのよね?」


 声を低めて慎重な顔つきをしながら、りんごが念を押すように尋ねてくる。


「そうだ。だから、後は決闘の日までただひたすらパイモニーの練習と、互いの親密さを深めていくのみだ」

「そういえば、勇登くん、ずっと気になっているのだけど……」


 と、翠花。


「私たちは――というか、りんごは、あくまで元委員長と決闘をすることになっていたのよね? でも、委員長が変わってしまって、それでもちゃんと決闘は行われるの?」

「決闘を引き受けていた人間が、その決闘の直前に役職を他と代わった場合について定めた条文を、おっぱい法はまだ持っていません。つまり、決闘を行うか、それとも待ったをかけるかは全て現委員長の一存であると言えます。

 そして今のところ、彼女からそれに関する発表は一切なされていない。ということは、この決闘は予定どおり行われるものと考えて間違いないでしょう。

 いやむしろ、これは僕の勝手な憶測ですが……ひょっとしたら彼女は、この決闘を自ら行うために、母親からその地位を強奪したのではないかと、そんな気さえしています」


 勇登が言うと、翠花とりんごは一様に表情を凍らせ、黙り込んだ。が、りんごがその目つきに力を込めて言う。


「お願いします、翠花さん。純と戦わなくちゃいけなくなって、わたしは尚更、この決闘に勝たなくちゃいけなくなりました。でも、一人じゃきっと純には敵いません。だから、翠花さんの力をどうか……」

「もちろんよ、りんご。決闘の相手が変わっても、私とあなたが仲間であることは変わらないわ。私たちは決して独りじゃない……一緒に、頑張りましょう」


 そう頷き合うりんごと翠花を見て、勇登もまた頷く。


 行ける。この二人を選んだことに、やはり間違いはなかった。そう確信を深めながら、勇登はこの二人のために命を懸けようという決意を再確認したのだった。

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