巨乳の女神。その4
「お願い?」
「はい。実は、僕たちは既に、一週間後――いえ、六日後に委員長と決闘をする約束を取りつけています」
「六日後……!?」
と、御山はその目を今日一番というほどに大きく開く。
委員長が貧乳と決闘をする。こんなセンセーショナルなニュースなのだから御山も知っていて当然のはずなのだが、これを知らないということは、やはり御山は今の乳ワールドでかなり孤立した存在となっているらしい。
「はい、僕たちには時間がありません。ですから、お願いします。どうかりんごと――」
「ええ、解りました」
と、御山が首肯する。
「パイモニーを実現させるには、私がエアパイツを取り戻すこと、それと私と新原さんが深い意志の繋がり……言わば、絆を持つことが欠かせないのでしょう? そのためにはまず、私と新原さんはお互いをちゃんと理解し合わねばならない」
「その通りです」
流石は進学校の優等生だけあって頭の回転が速く、会話が楽だ。勇登がそう敬服すると、
「え? な、何? どういうこと?」
りんごがキョドキョドと勇登と御山の顔を交互に見る。御山が柔らかく微笑んで言う。
「新原さん、これから私の家へ来て、そのまま六日間、私と一緒に暮らすの。あなたは今日から私の下僕――」
「え?」
「ということにすれば、乳安もあなたに手を出しにくくなるでしょうし、そのほうが安全のはずよ」
はい。と勇登は頷き、
「まさに、そうお願いするつもりでいました。りんごは少々ガサツなところもありますが、とても優しい、真っ直ぐな心を持った美しい女性です。これから六日間、どうかよろしくお願いします」
深く頭を下げる。すると、りんごが慌てて勇登と御山の間に入る。
「ちょっと、あんた! 何勝手にお願いしてるのよ! あたしはまだ何も――」
「りんご、これは絶対に必要なことなんだ」
と、勇登はりんごの目を見据える。
「二人の調和なしに、委員長への勝利は不可能だ。これは間違いない。だから、りんご、これからお前は御山さんの家に住め。これはお前の身を守ることにもなるし、御山さんの命令だと言えば、お前の母親も何も言わないだろう」
「そ、それは確かにそうかもだけど、でも御山さんの親は……?」
「御山さんは乳安の所有している公舎で一人暮らしをしている。だから、その心配はする必要がない。そうですよね、御山さん」
と御山を見やると、りんごがムッとした顔で言う。
「あんた、まさか御山さんの部屋も覗いてたんじゃ……」
「もちろん下調べはしたさ。だが、ここで御山さんが一人暮らしをしているのを知っていたのは調査をしたからじゃない。御山さんが『あの事件』の後、家を出て一人暮らしをしていたことは、とっくに噂で知っていたんだ」
「『あの事件』って、ああ……」
御山の表情に影が落ちたのを見て察したように、りんごは気まずそうに言葉を途切れさせる。が、りんごのその困ったような顔を見て、御山が慌てたように微笑んだ。
「まあ、そういうことだから、私もあなたと一緒に暮らすことになんの問題もないわ。じゃあ、そうと決まれば早く帰りしましょうか。早く帰って、今日はなるべくご馳走を用意してあげたいし……」
「え? あ、いえいえ、どうぞお気遣いなく……! というか、本当にいいんですか? あたしが御山さんの家なんかに住んで……」
「ええ、大丈夫よ。私も、一人で寂しかったところだし」
「そ、そうですか……?」
御山の巨乳を前にすると、どうしても反射的に恐れを感じてしまうのか、やけに低姿勢なりんごに苦笑しつつ、勇登は言う。
「じゃあ、行くぞ、りんご。お前は門番の詰め所で着替え直したら、公園の入り口近くで御山さんの帰りを待って、一緒に乳安の車に乗って帰れ」
「乳安の車?」
「乳安が御山さんに用意している送迎車だ。そこではなるべく、御山さんの下僕らしく振る舞え。そうすることで、お前が御山さんの下僕になった噂が乳ワールド内に広まり、お前の安全がより保障されることになる」
「な、なるほど。解ったわ。でも、あんたは?」
「俺は、お前と御山さんが――」
「そう固くならず、私のことも『翠花』で……大丈夫ですよ、勇登くん」
と、御山がややはにかむようにしながら微笑む。
「そうですか。では――お前と翠花さんが無事、車に乗って帰ったのを確認してから、俺も家へ帰る。俺への心配は無用だ」
「そう。うん、解ったわ」
「ふふっ」
りんごが頷くと、翠花がずいぶん緊張が和らいだ様子で再び笑った。
「あなた方は、とてもお互いを気遣い合っているのね。二人はもう、特別な絆で結ばれているのかしら」
「へ?『特別』って……ち、違いますよ! あたしたちは別にそんなんじゃ……!」
「……けれど、美しい絆ほど壊れやすいのよね」
翠花が、その目にまた憂鬱の色を浮かべながら呟く。
え? りんごは怪訝そうに目を丸くしてその顔を見つめる。が、勇登は軽く別れの挨拶を済ませると、りんごの腕を引いて翠花より一足先に部屋を後にしたのだった。




