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乳ワールド-異世界降誕ノ章-  作者: 茅原
女神降誕ノ章
11/61

覚悟の朝。

  ○  ○  ○


 ガチャンと重たい金属音が密室内に鳴り響く。


 勇登は汗の入る目を眇め、フッ! と強く息を吐きながら、左右へ広げていた両手を前方へと運ぶ。


 その手首にはバンドが巻かれ、そのバンドには太いワイヤーが装着されている。そのワイヤーは複数の滑車を経て、左右の十三キロの重りへと繋がっている。いわゆる『ケーブルクロスオーバー』という筋肉トレーニングマシンを、独自に改良したものである。


 全身に滝のような汗を掻いた勇登の目の前には、一体のマネキンが置かれてある。


 そのマネキンの胸には、豊かなおっぱいを模したシリコン製のアイテムが張りつけられており、勇登は前方へ運んだ両腕をその直前で数瞬停止させ、


「くっ……!」


 その乳首を的確に摘んでから腕を左右へ戻す。この運動を十回を一セットとして、ひたすら繰り返している。


 マネキンに装着されている疑似乳房の大きさはMカップ。その盛り上がりは暴力的なほどにこちらへ向かって突き出しているが、あくまでその乳首へのタッチは繊細に行わねばならない。


 もはや両腕に感覚はない。後一回、乳首に指を触れれば一セットが終わる。


 遙か遠い希望に手を伸ばすように、勇登が歯を食いしばりマネキンの乳房へ手を伸ばしていると、トレーニングルーム内に電子アラーム音が鳴り響いた。


 全身から力を抜き、しばしそのままだらりと身体を休ませてから、どうにか残る力で両腕のバンドを外すと、入り口脇の電話台に置かれているデジタル時計のアラームを止める。


 時刻は既に午前六時。家の地下にあるこの一室に籠もっていたせいで、夜が明けていたことにも気づかずにいたのだった。


『大丈夫か、勇登?』


 胸の裡から聞こえてくるそんな言葉に、勇登はトレーニング室を後にしながら答える。


「ああ、大丈夫だ。むしろいつになく好調なくらいだ。それに、疲れたなどと言っている場合ではない」


 今日はまた新たにやるべきことがある。立ち止まっている暇などない。勇登は熱いシャワーで汗を流しながら、その手に出現させた金色の球体をじっと見下ろし、ゴルフボール大のそれをギュッと握り締める。


 命を懸けて戦う覚悟は、とうにできている。


  ○  ○  ○

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