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聖女は世界の果てへ旅をする

「……やれやれ。やっちまったよ」


 俺は大聖堂から出た後で、大きくため息をついた。


「やれやれ……今更だなぁ。やるってわかっていたでしょ?」


「まぁ、そうなんだが……イリアはあれでいいのか?」


 俺はそういって横を見る。ウェスタはいつもの調子でニコニコしていた。


「……いいんじゃない? 彼女が決めたことだ。もはや神である……って、もう僕達も神じゃなかったね」


「でも、姿を消したり……まだ神の力は使えるんだから、神じゃないのか?」


 俺がそう言うとウェスタはキョトンとする。


「……ニト君は、神の方がよかったかい?」


「俺? いや、別に……俺は人間の方が性に合っているよ」


「そっか……本当に、良かったのかい?」


 ウェスタは俺に心配そうにそう訊ねる。


 神はやめたが……神の力は残っている。というか、神としての能力は残ってしまっている。


 それはつまり、俺達は人間ではないということだ。年も取らなければ、人間的な感情に支配されることもないある意味超越的な存在なのである。


「……ああ。俺が決めたことだからな」


 あの時……つまり、ウェスタは俺を転生前の状態に戻すと提案した。もし、あの時その提案に乗っていれば、俺は今ここにおらず、元の世界に人間として戻っていただろう。


 確かに転生前の俺は引きこもりでどうしようもない人間だったが……それでも人間だ。神ではない。


 これから半永久的にこの世界を観察し続けていかなければいけないという使命を負うことはなかった。


 それでも、俺はこの異世界の観察し続けることを決めたのだ。


「そっか……じゃあ、僕ももう気にしないね」


 ウェスタはそういってスッキリとした表情になった。元から、そんなことを気にしてなんていなかった気がするが。


「さて……これからどうするかねぇ」


「そうだね……イリアは見たいってさ。この世界を。それなら……僕達はそれに付き合ってあげるのがいいんじゃない?」


 確かに、俺もそれは同意見だった。そもそも、俺だって、この異世界のことを全然知らないのだ。


 だったら、もっと知りたかった。神とか人間とか関係なく……この世界を見てみたかったのだ。


「……ウェスタ。俺、日記付けたいんだけど」


「へ? 日記? あー……別にいいけど……書くものがないな。今度行く街で買うけど……何の日記だい?」


「そりゃあ……この異世界の観察日記だよ」


 俺がそう言うと、ウェスタは満足そうに微笑んだ。


 この世界は続いていく……それならせめて、その模様を創造者として日記に付けたいと思った。


「二人共! こっちだぞ!」


 と、元気そうな声が聞こえて来た。アムリウスの街のはずれでは、ウェスタの聖女が俺達に向かって手を振っていた。


「フフッ……また、始まりに戻っちゃったね」


 ウェスタは困ったように微笑んだ。


「ああ……さて……今度はどれくらいの長さの旅になるんだか……」


 俺とウェスタはそれから、イリアの元に急いだ。



 こうして、聖女イリアの巡礼の旅は、再び幕を開けるのであった。

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