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聖女の選択

「聖女イリア。よくぞ戻りました」


 アムリウスの街、エンピレオ大聖堂……神祇官は重々しい声で、聖女イリアをそう褒め称えた。


「ありがとうございます。神祇官様」


「今後も女神ウェスタのために、祈りを欠かさず、聖女としての勉めを果たしなさい」


「はい。全力で務めさせていただきます」


 大聖堂の中には、多くのウェスタ教関係者が集まっている。


 その中心部、壇上で、これまで見せたことのないような凛々しい表情で、イリアは神祇官から祝福を受けていた。


「……神祇官様。1つ、お願いがあります」


「なんですか、聖女イリア。申してみなさい」


「……私は、聖女として、巡礼の旅を続けたいのです」


 イリアは大聖堂全体に響くような大きな声でそう言った。


 その瞬間、大聖堂内部はシーンと静まり返った。


 そして、しばらくしてから、我に返った神祇官が目を丸くする。


「ほ……本気で言っているのですか。聖女イリア」


「はい。本気です」


「ですが……今後貴女は聖女としてウェスタ教会内部で高潔な立場に着くのですよ? 巡礼の旅などという過酷なことはせずとも――」


「高潔な立場など、興味はありません!」


 イリアはそうはっきりとそう言った。再び大聖堂内部にどよめき起こる。


「私は、世界を見てみたい……そして、聖女として、世界中で苦しむ人々を救いたいのです!」


「し、しかし……女神ウェスタの教えでは……」


「いいえ! 女神ウェスタもきっと、それに賛同してくれるはずです!」


 イリアは譲らなかった。困ってしまったのは神祇官、そして、ウェスタ教関係者であった。


「……聖女イリア。よいのですか? 今度旅に出れば、二度と、教会内部での神に使える高潔な立場にはつけませんよ?」


「はい。もう、決めたことです」


 イリアの緑色の瞳はまっすぐと神祇官を見ていた。それは、誰がなんと言おうと揺らがない決意を表明するものであった。


「……わかりました。では、聖女イリア。今すぐにでもお行きなさい。そして、世界を見て、苦しんでいる人々を救ってくるといいでしょう」


「ありがとうございます! 神祇官様!」


 神祇官はなげやりな態度でそう言った。イリアはその言葉を聞くと同時に、大聖堂の中から走って出て行った。

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