最後の選択
「……お、おいおい。ここにきて一体何を言い出すんだよ」
意外な提案に、俺が思わず驚いてしまった。
しかし、ウェスタの表情は真剣だった。
「……ごめんね。今更こんなこと言い出して」
「あ、当たり前だろ……何考えてんだ」
「でも! ……君はこれからずっとこの世界で生きていくんだよ? それでいいのかい?」
ウェスタは心配そうにそう言う。そして、紅い瞳は俺のことを見ていた。
この世界……多くの人が苦しんでいて、未だに安定しないこの世界……
「……はっ。あのなぁ。転生前に戻るって、俺は引きこもりのニートだったんだぞ? 戻った所で、仕方ないだろうが」
「……でも、今はもう違うだろ?」
ウェスタは強い口調で俺にそう言った。
確かに……今は引きこもりではない。
この世界にきて、俺は……自分でも言うのもなんだが、少なからず成長することができた。もちろん、剣術が使えるとか、魔術が使えるようになるとか、転生前に考えていた異世界的成長じゃなくて、精神的な成長……だと思う。
そうなれば、元の世界に戻れば、多少は引きこもりよりはマシな人間になれるだろう……
だけど……
俺はウェスタのことを今一度見る。
「……っていうか、どうするんだよ? 俺は死んだんだろ? 蘇らせることもできるっていうのか?」
「……そうじゃない。僕はもう一度だけ、世界を再構成できる。君が元いた世界とそっくりの世界を創造して、その世界の住人として君も再構成する……こうすれば、君はほぼ、元通りって言えるだろ?」
「……っていうと、この世界は無くなるってことか」
「……そうなるね」
ウェスタは申し訳無さそうに俺のことを見た。俺は思わず大きくため息をついてしまった。
「どうして、俺にそこまでしようとするんだ?」
「……最初に言ったじゃないか。僕はなるべくニト君の要望を受け入れた世界にしたい、って」
そう言われて俺は最初のウェスタとの出会いを思い出す。あれから随分と経ったのだ。
確かに、この世界は不安定で、未成熟、さらには理不尽だ。俺がもといた世界の方が断然、快適である。
そうなると、俺の選択は……
「そんなの……決まっているだろ。俺の選択は――」