成長
「ようやく明日頃には、アムリウスの街にたどり着く……長いようで短い旅だったな」
数日後の夜。俺達は既にアムリウム近郊までやってきていた。
イリア、俺、ウェスタは焚き火の周りに集まってお互いの顔を見ていた。
「……これで、ようやく終わりか……確かに、長いようで短かったな」
「プッ。ニト君はほとんど何もしていないじゃないか」
ウェスタは馬鹿にした調子でそう言う。俺はウェスタのことを睨みつけた。
「まぁまぁ。二人共。二人がいなければ私はここまでやってこれなかった……二人が何もしていないなんてことはないと思うぞ」
イリアがそう言ったので、思わず俺とウェスタはイリアのことを呆然として見つめてしまった。
俺達に見つめられているのを感じて、イリアは恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「あ……私は何か変なことを言っただろうか?」
「……いやいや。イリア。君は成長したねぇ」
そういってウェスタは立ち上がると、イリアの頭を優しく撫でる。
「う、ウェスタ様……やめてくれ」
「はぁ……それにひきかえ、ニト君は……転生する前と何も変わっていないじゃないか」
「なっ……だ、だから! イリアが言ってくれたじゃないか。俺達のおかげだ、って」
俺がそう言い返しても、ウェスタは聞く耳持たずといった感じで俺のことを馬鹿にした感じで見る。
「ふーん、だ。大体ねぇ、僕が神様をやめるって決断したのも、イリアがこんなに良い子に成長したからなんだからね。ニト君なんていなくてもいいんだから」
「そ、それは困る! ニトがいなくなったら……私は寂しい」
イリアが慌てて不安げな顔でそう言う。それを見て、ウェスタは優しく微笑んだ。
「……大丈夫だよ。ニト君はどこにも行かないから」
ウェスタにそう言われてイリアはホッとしたようだった。
ああ……俺はこの異世界に来て、ようやく誰かに必要とされることができたのだ……それは、俺の転生前と転生後、今までの人生を含めてとても嬉しいことだった。
「……さて、明日も早い。早く寝よう」
イリアがそう言ったので、俺とウェスタも焚き火を消して休むことにした。
それから数時間、俺は星空を見上げていた。近くではイリアの寝息が聞こえてくる。
「ニト君」
と、ふいに隣を座っていたウェスタが俺に話しかけてきた。
「ん? なんだ?」
「……まだ、怒っているかい?」
「え? あ、ああ……まぁ、お前は要は俺を騙していたわけなんだろうが……俺にも責任はあるしなぁ」
暗闇の中、不安そうな顔で白髪の少女はそう言う。そして、ふと、少女は掌を俺の顔の前に差し出した。
「ん? なんだよ」
「これ」
すると、ボッといきなりウェスタの掌に炎が灯った。
「お前……」
「……神様をやめても、まだ神様の力は残っている……もちろん、やめた以上、この力も失われ、ウェスタという名前のただの存在になっていくんだろうけど……1つだけ、ニト君に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたこと……なんだよ?」
俺が怪訝そうにウェスタに訊ねると、ウェスタは言いにくそうな顔で俺を見た。
「……この神の力を持ってすれば……君を転生前に戻すことができるんだけど……どうする?」