帰り道
「……そうですか。聖女に、なれましたか」
「ああ……その、神父には大分迷惑をかけたな」
帰り道。俺達はイリアたっての希望で、神父バッコスの元へ立ち寄った。
神父は以前来た時と同じようにイリアを優しく迎えた。
「いいんですよ。それより……聖女様。貴女は随分と成長されたようだ」
「え……そ、そうだろうか?」
「はい。この世界は神の教えが全てではないことを、貴女は知った……それは大変な成果ですよ」
神父は嬉しそうにイリアに微笑む。イリアは恥ずかしそうに頭を掻いていた。
「フンッ……相変わらず偉そうだね。あの神父」
と、ウェスタが俺にしか聞こえないような小さな声で俺に耳打ちしてきた。
「……お前なぁ。いいだろうが。イリアは嬉しそうだぞ?」
「そうだけどさぁ……まぁ、確かに、この神父がいたからこそ、イリアはアルピエの森に逃げ込んで自分を見つめる機会を得た……なんだ。この神父がいなかったら今のイリアはなかったんじゃないの?」
自分で勝手に納得してしまうウェスタ。俺は何も言わずにイリアのことを見ていた。
「その……神父殿。私も……貴方のようになれるだろうか?」
と、いきなりイリアが言い出したことに、神父は驚いていた。俺も思わず驚いてしまった。
「……ええ。今の貴女なら、きっと私よりも大きなことを成し遂げることができますよ」
「そうか……ありがとう」
神父にそう告げて、イリアは俺達のもとに戻ってきた。
「お二人のおかげですか?」
と、今度は神父は俺達の方に向かって訊ねてくる。
俺とウェスタは顔を見合わせてから、苦笑いをする。
「いえ。イリア自身の気付きによるところですよ」
俺がそう言うと、神父は満足そうに微笑んだ。
こうして、神父のもとを後にし、俺達は再び、アムリウスの街への道を歩み始める。
「しかし……それにしても、イリアは強靭だったよね」
と、ふいに背後を歩いていたウェスタがそう言う。少し先を歩いていた俺とイリアは振り返る。
「強靭……どういうことだ?」
「だって、神父の時といい……この巡礼の旅は君の価値観を根底から破壊するような旅だった……まぁ、それは僕がそうさせた面もあるんだけど……どうして、君は耐えられたんだい?」
すると、イリアは目を丸くして俺を見て、それからもう一度ウェスタを見る。そして、なぜか小さく微笑んだ。
「それは……1人ではない気がしていたからだ」
と、イリアは嬉しそうにそう言った。
俺とウェスタは思わず顔を見合わせる。
「きっと、1人では無理だっただろう。だけど、常に1人ではない気がしていた。もちろん、途中からはニトが一緒だったが……もう1人、常に誰かが私を見守っていれくれる気がした……だから、かな」
そう言うとイリアはニッコリと優しくウェスタに微笑んだ。ウェスタは気まずそうに顔を逸らす。
「さぁ、アムリウムへ急ごう」
そういってイリアは歩き出す。
「……ってことは、逆にイリアを見守り続けたことで、巡礼を成功させちゃった、ってことだな」
俺はウェスタに近づき、小さな声でそう言った。ウェスタは忌々しげに俺を睨む。
「可愛い子には旅をさせよ……1人でさせるべきだったね」