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傲慢な神々 3

「な……何を言い出すかと思えば……ははは……馬鹿なことを」


 ウェスタは呆れた様子で俺を見る。


 しかし、俺は本気だった。


「……ウェスタ。確かに、世界を創造して放っておいたのは俺だ。その点は全部俺が悪い……だけど! イリアやこの世界にはもう罪はないだろう?」


「……綺麗事を言うな! 僕がどんな気持ちで今までこの世界に縛られていたと思っているんだ……」


「……だったら、もういい」


 俺は静かにそう言った。ウェスタは驚いた顔で俺を見る。


「……もう、いいって……え……どういうこと?」


「……もういい。お前は充分神としての役目を果たした……もう、神様はやらなくていい」


「なっ……何を言っているんだい? 僕が神様をやめたら、誰が神をやるんだ? 君がやってくれるのか?」


「……いや、俺もやらない」


 俺ははっきりとそういった。キョトンとした様子でウェスタは俺を見ている。


「……この世界には良い意味でも悪い意味でも、神はいらない。今までのイリアの旅を見て俺はそう感じた」


「……馬鹿なことを。本当に……そう思うのかい?」


 そういってウェスタはイリアを見る。イリアは炎の中で微笑んでいた。


「……私は今までウェスタの聖女として生きてきた。そして、今の私がここにいるのも、女神ウェスタのおかげだと思う……神がいなくなると言われれば、確かに不安だ」


 そして、イリアは俺のことを見る。


「……だけど、私は見えない神よりも、近くにいてくれるニトに安らぎを感じてしまった。それは、神への冒涜なのだろうが……それでも、私に安らぎをくれたニトがそう言うのならば、私はニトを信じる」


「……イリア」


 ウェスタは悲しそうにイリアのことを見てから、再び俺を見る。


「……ニト君。本当にこれでいいと思っているのかい?」


「……いや。俺は罰を受けていないし、それに対する贖罪をしていない。このままではダメだと思っている」


「じゃあ……どうするつもりさ?」


 ウェスタがそう訊ねると、俺はイリアを見る。


「……この世界を観察し続けるよ。神としてではなく、人間としてさ。もちろん……イリアと一緒に」


 俺がそう言うと、しばらく空間は静寂が支配した。


 そして、さらに経ってから、イリアの周りを囲っていた炎が消えた。


「……ウェスタ」


 俺はそう言ってウェスタを見る。苦笑いしながら、ウェスタは俺を見る。


「……終わっちゃったのは、僕の世界だね」


 悲しそうにウェスタはそう言っていた。両目からは涙があふれている。


「……結局、僕は偽物の神様だった。世界を良くしたいとかどうでも良くて……こんな役目から開放されたいだけだったんだ……」


「……本当に、すまん」


 俺が謝ると、ウェスタは両目をゴシゴシとこすり、涙を拭く。


「……もう謝らなくていいよ。いいじゃないか。観察し続ける、だって? 神様もびっくりの傲慢さだよ。いや……それでいいのかもしれない。どうせ、僕達は頑張って神様の真似事しかできないからね」


 そう言うと、ウェスタは再び指をパチンと鳴らす。


 すると、ウェスタの周りだけ、炎が出現し、燃え上がった。


「う、ウェスタ……お前……」


「もういいよ。僕の役目は終わった。イリアのこと、ちゃんと見守ってあげるんだよ」


 そういって炎はウェスタを包んでいく。俺は思わず止めようとする。


 ……ダメだ。俺には止める資格はない。


 俺自身がウェスタを苦しめ続けてきたのだ。そして、ウェスタは何も悪いことなどしていない。


 本当は、俺が消えるべきだというのに……


「待ってくれ!」


 と、聞こえて来た声は、イリアのものだった。


「ん? ああ、イリア。君はもう自由だ。聖女になってもいいし、ならなくてもいい。悪かったね。今まで」


 いつもの調子でそう言うウェスタ。しかし、イリアはウェスタのことをジッと見ていた。


「……違う。貴女は……本当は寂しかったのだろう?」


「え……」


 イリアはそう言ってウェスタの近くに寄っていく。


「誰も貴女の近くにいなかった。世界を作っても貴女の周りにいる人は誰もいなかった……だから、貴女は寂しかっただけなのだ……私にはわかる」


 そういって、イリアはウェスタに手を伸ばす。


「貴女は私のことを知っているのかもしれない……だけど、私は知らない。だから……このままいなくなってしまうなんて寂しすぎる。どうか……いなくならないでくれ」


 イリアがそう言った瞬間、ウェスタの周りの炎が消えた。


「ウェスタ……お前……」


「……ニト君。ようやく、僕達は成功したんだね」


 そういってウェスタは俺の方に振り返る。


「……本物の聖女を作ることに」


 その表情は心底嬉しそうだったが、両目からはとめどなく涙が流れていた。

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