傲慢な神々 2
「……供物? お、お前……まさか……」
俺はイリアを見る。イリアは突然発生した炎を見て恐怖していた。
「に、ニト!」
「イリア、動くなよ! ウェスタ! お前……」
俺が睨みつけると、白髪黒衣の神は下卑た笑みで俺を見る。
「やれやれ……ようやくこの時が来た……今まで僕をこんな世界に縛りつけていた張本人に、僕はようやく復讐できる……3年だ! 僕は3年も待ったんだ!」
ウェスタは半狂乱になりながら俺に怒鳴る。
「な、何を言っているんだ、お前……」
「君は! 自分がしたことをわかっているのかい? 物語を創造した癖に放置した! 結果、その物語には主人公と神である僕しか残らなかった……そう! ここにいる聖女イリアと僕しか残らなかったんだ!」
「……は?」
今、ウェスタはなんて言ったんだ?
主人公と神……神はわかる。ウェスタ自身のことだ。
でも、主人公……それがイリア?
「ちょ、ちょっと待て! イリアが……主人公なのか?」
「ああ、そうさ。言っただろう? 彼女が世界の中心だと。そうでなければ、僕は彼女を観察しようだなんて言い出さないよ」
「で、でも! 俺は女主人公なんて設定した記憶ないぞ? というか……何か、この世界は結局、俺が書きかけた物語の世界なのか?」
すると、ウェスタは大きくため息をつく。
「……言ったじゃないか。どんな世界でも神様は宿る、って……その通りだよ。そして、どうしてイリアが女なのか、って? 簡単だよ! 彼女も転生したからさ!」
ウェスタは怒りの形相でそう言った。イリアが転生……一体どういうことなんだ?
「……つまり、イリアは……」
「……ああ。頭の悪い君のためにも丁寧に言ってあげるよ。僕はね、神として何度も世界を想像した。そして、そこに主人公も創造してきた。主人公たちはちゃんと物語を創ってくれた……でも! 一向にこの世界は終わらなかった! 何度作り変えても! 何度やり直しても! 世界は終わらなかった……そこで僕は気付いたんだ……僕はこの世界に宿っただけの神……だから、この世界を創った神でなければこの世界はおわらせられないんだ、って」
そういってウェスタはイリアに指をパチンと鳴らす。いきなりイリアの周りを囲っていた炎が激しくなった。
「い、イリア!」
「今までの主人公達もこんな感じだった! イリアの先代の聖女も僕の供物になった! でも、このイリアは特別な存在だ。なにせ、ニト君とイリアはこれ以上ない程仲良くなった! そのイリアが死ねば、ニト君は世界が終わったと感じるだろう? そのためにここまで周りくどい方法を取ってきたんだ!」
ウェスタの紅い瞳はランランと輝いている。イリアは激しい炎を中で苦しそうにしている。
……やはり、俺のせいだったのだ。俺は世界の創造さえ適当にしてしまった……結果としてこんな事態になっている。
「……ちょっと待て!」
と、不意に凛とした声が響いた。俺とウェスタは同時に声のした方を見る。
「貴様……今言ったことは、本当なんだな?」
と、凛とした声の主であるイリアは、炎に囲まれながらも、ウェスタのことを睨んでいる。
「ああ。そうさ。君は作られた存在。そして、今までの君も僕が仕組んだ旅……所詮君は物語等舞台の上で踊る人形だったんだよ」
「そんなことはどうでもいい!」
と、イリアは大きな声で叫んだ。俺もウェスタも思わずキョトンとする。
「……つまり、こんな世界にしたのは……貴様というわけだな」
「フッ……そうさ。でも、それは僕の責任じゃない。そこにいる愚かな創造神ニトのせいさ。君も恨むんならニトを恨むんだね」
すると、イリアは俺を睨む。
そうだ。ウェスタの言うことには反論できなかった。
ただ、考えてみれば、理不尽な話でもある。俺はこんなことになるなんて思っていなかった。
ただ、ちょっと軽い気持ちでラノベでも書こうと思っていただけだ。しかも、それは本当に少し期間だけのこと。
だから、俺は……
「……確かに、ニトにも責任はあるのかもしれない」
イリアはゆっくりとそう言った。そして、今一度俺の事を見る。
「……だけど、ニトは私の側にいてくれた。私にとって、それは何よりも嬉しい事だったんだ」
「イリア……」
イリアはそう言って俺に微笑む。俺はその笑顔を見ているとなんだか、心底、自分がどうしようもない存在であることを思い知らされているような気がした。
「あははっ! イリア、君はなにか勘違いしているようだけど、ニト君はそんな出来た人間じゃない。ニト君はずっと世界が悪いと思って生きていた。今だって、こんな状況になっても自分が本当に悪いって、思っていないんだろう?」
ウェスタはそう言って俺を見る。
「お、俺は……」
そうだ……俺は逃げている。
結局、転生する前と後、全然変わらない。俺は今でも問題から逃げている。
どこかに逃げられると思っているのだ。
……でも、もう無理だ。ここは俺が逃げてきた異世界……俺自身が逃げるために作った世界なのだ。
「ニト! 決めてくれ!」
と、イリアの声が聞こえた。俺はイリアを見る。
「お前が創った世界だ! お前がどうしたいか、自分で決めるんだ!」
「あははっ! そんなの無理だ! ニト君には自分で決めることなんて出来ないよ!」
……そうだ。俺の世界。俺が創った世界だ。
今まで責任からずっと逃げてきた。
それならば、今こそ、責任を負うべきだ。逃げてはいけない時なのだ。
「……ウェスタ。消えろ」
俺は静かにそうつぶやいた。ウェスタはキョトンとした顔で俺を見る。
「え……なんて言ったんだい? ニト君」
俺は拳とギュッと握りしめて、腹のそこから声を出す。
「……お前は、もう神じゃない! 今すぐこの世界から消えろ!」




