神の選択 4
「イリアぁ!」
俺は縛り付けられたイリアの側に駆け寄ろうとする。
しかし、すぐ近くまで来た所で、数人の男たちに囲まれてしまった。
「な……なんだ、お前たち……」
「フフッ。邪魔をするのはやめてください。ニト様」
と、男たちの背後から姿を表したのは、タルペイアだった。
「タルペイア……お前、どうしてイリアを……」
「言ったでしょう? この世界に聖女は2人はいらない……ですから、聖女イリアには神への供物になっていただくのです」
「ふ……ふざけるな! 神って……一体なんなんだ? この世界を創ったのは俺だぞ! 俺はイリアが死ぬことなんか望んじゃいない!」
俺がそう言うと、タルペイアは馬鹿にした様子で笑う。
「……フフッ。ニト様。神が望むか望まないかは関係ないのです。問題なのは世界がそれを望むかどうかなのです」
「何? 世界……」
「ええ。この世界に必要とされる聖女は1人だけです。神に必要とされるかどうかではないのです」
そういって、タルペイアはイリアの方を見る。
「さぁ、聖女イリアの周りに火を灯しなさい! 彼女を天に送ってあげましょう!」
そう言うと松明を持った男たちがイリアの近くに寄っていく。
ダメだ……マジでこれはイリアを殺そうとしている。
タルペイアは正気じゃない。アイツは聖女なんかじゃない。ただの狂女だ。
「……聖女じゃ……ない」
そこまで言って俺は思いついた。そうだ。聖女じゃないのだ。
イリアもアイツも、聖女じゃない。聖女の力なんて持っていない。
もし、仮にここで、傷ついた人間がいても、彼女たちは助けることができない。
大勢の前でその無力さを証明するだけである。
俺はそれを思いつくと、咄嗟に近くにいた男の腰元に目をやる。腰元には剣があった。
「……おい! タルペイア!」
俺はそう言いながら、男の腰元から剣を奪う。ふいをつかれたため、男の剣は簡単に奪えた。
タルペイアは人々が振り返る。
「お前が聖女というならば……聖女である証明をしてみせろ!」
俺はそう言いながら、その剣を思いっきり自分の腹に突き刺した。




